ベティがお客さんたちに叫んだ。「みんな? すごく綺麗よね? それに、とってもつつましい」
「出ているビデオを教えて!」 お客さんのひとりがさけんだ。
「アハハ! 信じてもらえるかどうか分からないけど、ここにいるケイトはポルノ女優じゃないの。でも、みんなも分かるでしょ? あたしのお友達のケイトは、どんなポルノ女優よりお色気ムンムンだって。ケイトがその気になったら、どんなポルノスターもやっつけられるはずよ!」
「ベティ、やめて!」 彼女の言葉を聞いて、思わず叫んでしまった。
お客さんが、さらに激しく口笛を吹いたり、いやらしい言葉を叫びだした。
「絶対、ビデオに出てよ。俺ならいくらでも払うぜ」 誰かが叫んだ。お客さんたちが一斉にうなづいた。
もうあたしはすっかり恥ずかしくなっていて、長くて太い黒ディルドを手にしていることすら忘れていた。しかも、煽情的な、あたしの体にはふた回りは小さいタイトドレスを着てることも。こんな姿でみんなの視線を浴び続けるなんて、もう限界。
ようやくベティがウインクして、あたしの手から重たいディルドを取ってくれた。そして、そちらの方にお客さんの注意を向けてくれた。あたしは彼女の後ろの方に引き下がった。ああ、これでやっと、みんなの目から解放されるわ。
気づいたら、隣にアダムがいた。彼は優しそうな笑顔であたしを見た。
「アダム、ここで何をしているの?」 ディルドの説明を続けるベティの邪魔にならないように、ひそひそ声で話しかけた。
彼は普段は虚ろな目をしているんだけど、今はちょっとギラギラした目であたしを見ていた。彼はしばらく何も言わず、ただあたしを見つめたままだった。彼の脳があたしが言った言葉を処理できないでいるかのよう。
やっと分かったのか、彼は両腕を左右に広げて、「あ、ケイト」と言った。あの、低音の声。単に腕を広げるだけで、腕から肩にかけて筋肉がもりもりと隆起する。
「今日のイベントの手伝いをベティに頼まれてね。行儀よくできない人が出てこないようにしてと」 彼はそう呟いて、お客さんたちをゆっくりと見回し始めた。