アンジーと私は船を見つけた。ふたりとも大いに気に入ったあの船。ふたりでその船の持ち主もおもてなしした。その持ち主は私のオフィスの隣のオフィスにいる。ロブである。ロブは最初、船を買うつもりなどなかった。私とアンジーが彼のオフィスに忍び込み、ドアを閉めるまでは。アンジーは彼のデスクに腰かけ、私は彼の膝の上に乗っかって両腕で彼の首に抱きついた。そうしてアンジーが私にしたのと同じリズムで彼にしてあげた。まあ、まったく同じことをしてあげたわけではないけど。
そんなわけで会社は「社用のヨット」を持つにいたった。(まあ、ビル・ワーツ(
参考)が所有するホッケーチームのブラックホークといったものには程遠いけれど、ミシガン湖をクルーズするにはお手ごろだし、ほどよく小さいのでオグデン・スリップ(
参考)に停泊させることができる)。
ロブとジムは、他のボート所有者たちと知り合いになり、一緒に酒を飲み、大騒ぎの週末をすごした。私とアンジーも、このお買い物をしていただいたお礼に、デッキでお尻を高々と掲げながら、全身に素敵な日焼けを得ると共に、ボスたちをとてもいい気持ちにさせてあげた。
ダイアナがどこに行ったかをアンジーに言わせる必要はなかった。ダイアナの社会保障番号を知っていたし、インターネットという武器もある。加えて、彼女がロスアンジェルスに旅行したことが偶然ではないかもしれないとも思っていたので、ダイアナの居場所は簡単に突き止めることができた。ウエスト・ハリウッド(
参考)であった。
私はアンジーにハリウッドに行ってみることを伝えた。アンジーは喜んではいなかったけれど、黙認してくれた。彼女は、私にはこの件を決着させることが必要であるを分かっていたのだろう。アンジーは、何か最終的な決心をするとしても、その前に一度戻ってくることを約束するよう私に求めた。
彼女は、サンタモニカ大通りにあるクラブ7969の中、スツールに座ってバー・カウンターについていた。その店がリンガーズほどの雰囲気の良い店とはとても思えなかったけれど、それなりの機能は果たしている店だった。
ああ、彼女は前と変わらずとても美しかった。私と彼女の間、時間が停止したように感じられた。その週末、以前と同じように、私と彼女はずっとベッドの中で過ごした。今この瞬間、この場所だけを思って、外のことや過去のことなど考えずに愛しあい続けた。
別れる前に、私は彼女がちゃんと生活できるように整えた。信託資金とベッドルームが2つあるコンドミニアムと彼女用の車を1台与えて。彼女にはどんなものでも自分がなりたい人間になれるのだと理解してほしかったし、それを達成するために誰か他の人やモノに頼ることはないのだと分かってほしかったから。今回は、彼女の携帯電話の番号もしっかり教えてもらった。
車でロサンジェルス空港まで送ってもらった時、私たちはずっと互いに触れ合い続けていた。この魔法のような瞬間を断ちきりたくなかったから。その気持ちは依然として強く、いまだに彼女に電話するたびに感じる感情だ。
私の生活も仕事も今だにシカゴで続けている。アンジーのおかげでいつも幸せな気持ちでいられることを否定しない。彼女の愛すべきところを挙げよと言われたら、大きいものも小さいものも含めて何百万ということができる。アンジーの方も私をどれだけ愛しているか恐れずに口にしてくれている。STG社も私も目を見張るほどの大成功を収めていた。ラサール通りでも世界的にも、STG社の名前はブランドになっていた。
実際、私も巨額のお金を得ていた。アンジーと私はロブとジムのふたりと公的にも(そして、非常に私的な)お付き合いを続けている。だけど、あの特別の非常に親密な関係はアンジーとの間のためだけ。
私とアンジーはまだ結婚していない。それに、ふたりとも会社に勤めている間は、多分、結婚することはないと思う。私たちは、オフィスに顔を出さなければいけないことが何度もあるので、結婚してしまうと、同僚たちから非常に答えづらい恥ずかしい質問をされてしまうことが考えられ、それはできるだけ避けたかったから。ある意味、私たちは他の会社の同僚たちをだましていることにはなっているかもしれないけれど、少なくとも、アンジーと私の間では正直な関係でいたいと思っている。
でも、時々、アンジーに誠実でいられなくなる時が出てくるのが事実。アレが機能しなくなるということ。
アンジーが私にそうなってほしいと思った時には、確かに、あの「小さな青い錠剤」(
参考)が助けてくれる。ええ、アレは、ロザリオ(
参考)になりたがってる60過ぎの男性に対してと同じように、「困惑した」Tガールにもうまく作用する。
アンジーは冗談まじりに、手術で逞しくしてもらったらと提案までしたけど、同時に、真顔で、完全に逆の方向になったらどうかとも言ってくれた。私としては、正直言って、後者の方がずっとアピール力がある。だけど、それって、私と彼女に対してどんな意味をもつことになるんだろう?
ロブは現状に満足している。でも、ジムはそう思っていないのじゃないかと思っている。私の直感からすると、ジムはアンジーと今以上に深い関係を望んでいるのではないかと思う。アンジーは、現状を変えたいという気持ちは一言も発していないけれど、ロブとジムと一緒にするちょっとした4人プレーを彼女がとても楽しんでいるのは事実だ。時々、ジムとアンジーが互いに見つめあう様子を見ると…… ロブも私のことを同じように見つめてくれるし、アンジーはそれに文句を言ったりはしない。でも、だとすると、どうしてアンジーは? 最近、私とアンジーは「バイアグラの滝にハネムーンに行く」(訳注:バイアグラの滝=ナイアガラの滝、バイアグラを使って新婚カップルの男女として愛しあうこと)の頻度がどんどん減ってきていた。私は、再び、「男」となって頑張るの? バカよね、私たち、そんなことする必要ないのに。そうでしょ?
この件についてアンジーと話しあうべきかしら? その必要があるのかしら? 言葉にあんなに高い価値をもたせた人間として、私は、どうしてその件についてアンジーとジムに訊くのを恐れているのだろう? 答えが怖いから? どうして私の人生はこんなにも複雑にならなくちゃいけないのかしら。多分、そんな複雑になる必要がないのかもしれないのに。
何度か、夜遅く、ベッドで安らかに眠るアンジーを尻目に、ひとりバルコニーに立って、眼下のオグデン・スリップ(
参考)やミシガン湖を見下ろすことがあった。そして、デュバル通りのファット・チューズデイ(
参考)のサンデッキに横たわってる自分の姿を想像する。着ているのは、紐みたいなビキニとハイヒールだけ。ピニャ・コラーダを啜りながら、アイランド・ミュージック(
参考)を聞いている。日は照り、空気は熱く、誰もが、いつも決まって午後5時に降りだす雨を待ち望んでいる。
そして、私の心はと言うと、通りのはずれにある古い映画館を思い浮かべている。そこでは、ドラッグ・クイーンのショーをしている。私は、あの魅惑的な茶色の瞳を思い浮かべ、あの種の人生が彼女には魅力的に感じられるのだろうかと考える。彼女は自ら進んであれをする気になるだろうか? 彼女は、私を抱きしめ、私を安全で居心地良く、そして幸せな気持ちにするためにすべてを捨てる気になるだろうか? 私はどうだろうか? 私の心の中では、弁護士たちが言うように、少なくとも、「訊いて、答えは得ている」。でも、すぐに、彼女に会いたくて心が疼いた。今でも、そう。
ただ、成り行きにまかせるの。…そして、流れがあなたをどこに連れていくか、見ていればいいの。
おわり