高校までは、父の命令で、髪の毛を短くしていた。だが、大学に入ってからは、僕は髪を切るのをやめてしまった。「暗黒の戦士 ハイランダー」シリーズ(
参考)のせいである。僕は、あの剣技や主人公のダンカンの長髪に魅せられるようになっていたのである。僕もダンカンを真似て長髪になり、ポニーテールにしていたし、同じくダンカンを真似て耳にピアスをしていた。ピアスは小さなものだったが、それでも目立つのは変わりなく、僕の上司のロバートソン女史はそれが気に食わなかったのである。
僕は、髪を切ったり、イヤリングを外したりせずに、ロバートソンさんを納得させる唯一の方法は、他の誰よりも一生懸命働くことだと考えた。
そんなわけで、あの7月中旬のある日、僕は法律関係の資料室にいたのだった。運命の日である。あの日以降、僕の人生は永遠に変わってしまうのである。
金曜日、一日の仕事が終わりそうな時間になってから、僕は仕事を命じられた。できるだけ迅速に完成せよと言われた。その日、数時間、その仕事に取り組んだけれど、どうしても仕上げるのが不可能なのが分かり、土曜日にも事務所にきて、仕上げようと思った。土曜日なら、誰もいないはずで、邪魔も入らないだろうと思ってた。
エアコンは金曜夜から日曜の夜まで切られることになっていた。だから、土曜日の資料室はかなり蒸し暑いだろう。そこでランニング・パンツとTシャツ、ジョギング・シューズの格好で事務所に行った。朝7時に事務所に入った。正午までに仕事が終わればよいなと思っていた。天気予報では35度くらいになると言っていたから、暑くなる前に資料室を出たかった。
探してる判例は資料室の奥にあると知っていたので、そこで懸命に文書を読み、目的の資料を探し回った。ようやく10時近くになって目的の文書を見つけた。そこで、その資料を抱えて、表のコピー機が置いてあるところへ歩いていた時だった。誰かにつまずいて、床に大の字になって転んでしまったのだった。
誰につまずいたのだろうと振り返ってびっくりした。とても綺麗な女の人がいたからだ。ストロベリー・ブロンド(
参考)と言うのか、赤みがかったブロンドの髪の毛。縦にカールして肩まで掛っている。瞳は鋭く、青い色で、海を映してるように見えた。肌は透き通るように白く、象牙を思わせた。顔や肩にそばかすが点在してる。
ショート・パンツを履いていたが、彼女には小さすぎるように見えた。上はタンクトップでかろうじて胸を隠してるような感じ。はっきりとは分からなかったが、ブラジャーはしていないようだった。というのも、タンクトップに乳首がツンと立っているのが見えたから。靴は履いていなかった。ここに入る時は履いていたはずとは思ったが。
彼女はにっこり微笑んだ。パッと顔が明るくなる。そして、ちょっとくすくす笑いながら言った。
「ごめんなさい。こんな通路に座っていたらいけないわよね。大丈夫?」
僕も微笑み返した。他にどうしていいか分からなかったからというのもある。ともかく彼女の笑顔は伝染性があった。
「ああ、大丈夫。僕の方が悪かったと思うよ。ちゃんと前を見て歩くべきだった。でも、ここに誰かいるなんて思っていなかったから」 と僕は立ち上がりながら言った。
「あ、資料を散らかしちゃったわね。拾うの手伝わせて」
彼女は僕が落してしまった本を拾い始めた。それを僕に手渡しながら自己紹介した。
「ちなみに、私の名前はアンジー・マクドナルド」
「はい、マクドナルドさんのことは存じてます。繰り返しになりますが、つまずいてしまって申し訳ございません。僕の名前はジャック・アンダーソンです。ここで調査員をしてます」
マクドナルドさんは僕より5センチくらい背が高い。僕は168センチの小柄な体格だった。僕の見たところ、彼女はとても痩せているけど、見事なプロポーションをしていた。ウエストは細く、それに比べると胸は大きすぎると言ってよいほどだった。もっとも、そのアンバランスに文句を言う男はいないだろう。
アンジーはまた微笑んだ。「もし、もう一度でも、そんな敬語で話したら、私、あなたのことひっぱたいちゃうわよ。まるで、私があなたのお母様と同じ歳みたいじゃない?」
彼女が冗談で言ってるのは分かっていた。「すみません。僕は年上の人には敬意を払うように育てられたので…」
実際のところ、彼女は僕より2つほど年上だった。