「そうだなあ… 哺乳類と子育てか… 基本的に、哺乳類は、子供を自立できない段階で出産する唯一の動物種だ。もちろんどんな法則にも例外があるけど。一般に、哺乳類の母親は子供の養育に従事する。母と子の関係がどれくらい続くかは、子供が教えられなければならない学習すべき行動の量と相関してるのが普通だ。学習すべき行動が多ければ多いほど、子供時代は長くなる。分からないなあ。この話に、他にどんな狙いがあるんだろう?」
ドニーが言った。「人間の子供時代について話して」
「そうだなあ、初期の人類では、子供時代は、だいたい思春期に入るまでの時間だと考えてよいと思うけど。ホモ・ハビリスでは子供時代がどのくらいだったか、僕には全然わからない。他の哺乳類のパターンに従うと仮定すると、たぶん、今の人類より2、3年早く思春期に入ったんじゃないかと思う。ホモ・ハビリスの平均寿命は現代の人類よりかなり短かったのは確かだからね…」
「…人類は進化するにつれて、子供時代も長くしなければいけなかった。学習すべきことが増えたから。ホモ・サピエンスについては、明らかに、身体の方が精神よりも早く成熟していると思う。子供はだいたい11歳から14歳までに思春期に入るけど、もうちょっと年上になるまで、依然として子供とみなされてるからね。どのくらい年上になると成熟したとみなされるかは、社会によるけど…」
「…現代の人間では18歳までに成人に達するといえると思う。いや、ちょっと待って! 特定の社会の慣行を見るのではなく、人類という種を全体的に見るなら、思春期になってすぐに成人に達してると言うべきなのかもしれないね。13歳から15歳までで達すると。女性は思春期に入って間もなく出産可能になるのは確かだ。だから、ある観点からすれば、それはもう成人になってると言えるかもしれない。でも、これで答えになってる?」
ディ・ディが言った。「まあ、せっかちに喋ったわりには悪くないわね。私の言ってる意味が分かればのことだけど。で、アンドリュー、最後にもうひとつ、関連したことを訊くわ。あなた自身の子供時代の長さについては、どう評価してるか、教えてくれる?」
ちぇっ! 僕に2と2を足して、5にしてみせろということか?
「君たちは、僕が成長期に抱えていた問題は、僕の成熟時期と、同年齢の他の子供たちの成熟時期との相対的違いによるのだと僕に言わせようとしてるんだね? 僕の子供時代は他の子供たちの子供時代より長いと、それゆえ、僕は成熟度合いが低いと言いたいんだね? 僕は大学に入ってようやく子供時代を終えたのだと。19歳か20歳まで子供だったと。そういうことを言いたいの?」
彼女たちは僕の答えに満足したような顔をしていた。だが、これは一体どんな話しなんだ? こういう話から何らかの結論を引き出させようとしているのだろうか?
ドニーが言った。「オーケー、アンドリュー。今までの、ちょっとした課題から得られる論理的帰結を話してみて?」
「おい、おい、ドニー! 僕はいやだよ。君たちが僕に何を言わせようとしてるか分かってるよ。でも、もっとうまいやり方をすべきじゃないのかなあ。思ってることをズバリと言ったらどうなのかなあ?」
ディ・ディが口を挟んだ。「アンドリュー、もうひとつだけお願い。これだけにするから。種分化について説明してみて」
「ああ、またか… 種分化は、ある生物種が別の生物種に進化するときに起きる。それがどういうふうに起きるかについてはいろんな説明が提案されてきた。一般的に、種分化は、ある生物種の中の小さな集団が、何らかの形で主流の集団と隔離されていて、独自の遺伝伝達を行ったときに起きるとされている。たとえば、小集団と主集団の間に川があったとか、そういう形の隔離だね。でも、もし、何らかの理由で、そういう隔離条件が失われたら、小集団は、種分化の過程が完了してない場合、簡単に主集団に再び飲み込まれてすぐに平均化してしまうものだ。僕が思うに、種分化というのは非常に起きにくいのじゃないかと思う。でも、いつでも発生してることでもあるのは事実。矛盾してるように聞こえるけど。たぶん、自分で何を話してるか分かっていないんだろうな」