ブルースはパティオに出て、輪の中、見覚えのない二人の男の向かい側に座った。一人は50代で、かなり肥満気味の男だった。もう一人は30代の学者っぽい男だった。3人の寝取られ男は互いに自己紹介しあった。
ブルースは、今夜は長い夜になりそうだと思った。…だが、ともあれ、他の旦那たちと話しをして、このクラブについてできるだけ情報を得ることにしよう… ああ、この「旦那」という言い方! 以前は、気にもしなかったが、だんだん、大嫌いな言葉になっている。 まさに最近の俺が、この言葉どおりの存在になってきてるから、いっそう忌々しい。夫でもなく、男でもない。ただの旦那、亭主、やどろく…
50代の男は社交的なタイプで、すぐにブルースに話しかけた。
「それで、今夜は、誰が奥さんにやってるの?」 陽気に問いかける。
「名前は知らないんですよ。30代、長身、なめし皮のジャケット、スラックスは濃紺、そして、良く動き回る手」
「あは! ここの男たちの半分は当てはまってしまうな。だけど、この場合だと、たぶんマイクのことだろう。マイクは、他の男と違って、あまり社交的じゃないんだ。彼は旦那に会うのが好きじゃない。でも、いい男だよ。実に、実にいい男だ。奥さんも決して失望しないはず。マイクは、実質上、単独で、このクラブに人妻を勧誘する働きをしてる男なんだ」
「あなたの奥さんも彼と付き合っているのですか?」
「ああ、やってる。もう、妻はマイクのことが大好きでね。マイクは女には魅力的に見えるんだろうな。それは確かに言える。それに、もちろん、彼は女の望みもかなえられるし。私の言ってる意味が分かればの話だが。ともあれ、マイクは旦那の感情なんか全然気にしない。そもそも、気にしなきゃいけない理由なんかどこにもないからね。女たちは彼が持っているものが欲しいし、彼は喜んでそれを女たちにあげている。どこにも変なところはないんだ。でも、マイクはかなり要求が強いよ。俺もマイクに家に来てもらおうとずいぶん頑張ったよ。でも、なかなか、うんと言わないんだ。贈り物をしたし、手紙を書いたし、もう、とてつもないことも約束した。妻も、これに関してはずいぶん口やかましくってね。マイクにお泊りをしてもらって、って言うんだ」
「なんと、贈り物まで?」
「当然だよ。それに、そういうことをするのは、ウチばかりじゃない。妻が求めるからというのが、主だな。それに、妻は、求めるものを得られなかったら、今度は俺のせいにするからね。そうなったらどうなるか、ご主人もご存じでしょう?」
「さあ… 今、私は学習中なんですよ。このクラブに来るのは、今夜で2回目なんです」
「そう… もし、マイクが奥さんを入会する気にさせられなかったら、誰にも無理だろうなあ」
「いや、もう妻はその気になってますよ。まだ、どうしようかと迷ってるのは私なんです」
この言葉に、相手はびっくりしたようだ。
「ええ? ご冗談でしょう? これって、あなたにとって最高のことなんですよ。幸せいっぱいの妻と人生を送れるんですから。奥さんは元の生活には戻ろうとしませんよ。わかると思うけど。でも、ひょっとして、ご主人は、奥さんがクラブの男と一緒になってるところをご覧になってないのかも…」
「ええ、まだ…」
「その時が来たらすぐに信者になれるよう準備しておきなさいって。ここの亭主たちは、皆、宗旨替えをしてます。もちろん、皆さんは、とても賢い方ですよ。とても、簡単に言いくるめられるような人じゃない。でもね、最初の3回のパーティが終わるまでに、あなたの奥さんはすっかりハマってます。あなたも経験があるでしょう? 女を手に入れるために、もう何でもやったもんでしょう? あれをまた繰り返すんですですよ… 奥さんに、それ相応の男性をあてがうためにね。一方ではその男性に奉仕して、もう一方では奥さんに奉仕する。それでこそ、立派な妻思いの夫というものです。奥さんがビッグ・マイクについてどう思ったか興味があるはずですよ。私なんかは、あの男のためなら何でもしますね!」
その時、首輪をしたもう一人の夫が輪の外に出て、ブルースに伝言を持ってきた。ブルースが「シーツ」をする順番がきたというのだ。
「私は何をすれば?」 とブルースは不安そうに訊いた。