「ジャッキー」第2章
これまでのあらすじ
ジャックは結婚して半年になる妻のアンジーが浮気をしている現場を見てショックを受けながら、二人が知り合った頃を回想するのだった。バイトをしている法律事務所で勤務時間外の土曜に仕事の残りをしに来たジャックは、すご腕の上司アンジーの仕事を手伝った。仕事を終えた二人は一緒に食事をし、楽しいひと時を過ごしたのだった。
次の月曜日、土曜日に仕上げた仕事を提出した時、ランディ・サベイジがロバートソンさんのオフィスに駆け込んできた。
「あの女に格下げされたよ。信じられるか? あの女、俺が1回だけ週末に休んだからって、そんな理由で俺を格下げしやがった」
「今朝、朝いちで電話をしてきたから、知ってるわ」と、ロバートソンさんはランディに言った。そして僕の方を見て、続けた。「ジャック、次の標的はあなたね。というわけで、今朝、彼女はあなたを個人的にご指名してきたわ。実際、他に選択肢がなかったというのもあるわ。すでに、この部局では、あなた以外の全員を一度は試してきてるから。彼女と2週間以上もつかしら? お楽しみだわ」
誰のことを話しているのか聞くまでもなかった。ランディは、この2週間、アンジーのもとで働いていたからだ。それに、この会社でバイトするようになってからの半年間に、何人も他の人が彼女のもとで働いては、追い返されてきたのを知っている。誰もが、彼女を罵りながら帰ってきていた。
自分の持ち物をまとめてアンジーのオフィスに向かうのに、たいして時間はかからなかった。個人の持ち物を入れた箱をアンジーのオフィスのミーティング用テーブルに置き、軽く彼女のオフィスのドアをノックした。どうぞ、と声がかかり、僕は中に入った。
アンジーは僕の顔を見るなりパッと顔を明るくさせ、笑顔になった。デスクの向こうから歩いてきて、僕の手を取り言った。
「おはよう、ジャック。あなたを選んだこと、気にしていないと嬉しいんだけど」
「もちろん、光栄に思ってます」 と応え、僕しか選択肢がなかったことについては触れなかった。
アンジーは僕の手を握ったまま続けた。「なぜあなたを選んだかは、知っているはずよ。あなたなら私のところで恒久的に仕事を続けられるのじゃないかって感じがしてるの。でも、もちろん、職場のアバズレ女王は、なかなか満足させるのが難しいわよ。この仕事に立ち向かう覚悟はできてる?」
アンジーが自分のことをアバズレ女王と呼んだことに、僕は思わず微笑んでしまったし、アンジーも笑顔を返していた。「はい、あ… ぜひがんばってみたいと思います」と僕は答えた。
アンジーはぎゅっと僕の手を握った。「これだけは、最初に言っておくわね。あなたは、これから3ヶ月間は見習い期間を続ける。ここで、それだけ長く続けられたら、正規の助手に昇進し身柄は恒久的になるわ。当然、それに応じて給料も増える。その場合の給料は、もちろん、今日の日付までさかのぼって増額される。以上。もし、まだ、この仕事をやれると、私ともちゃんとやれると思ってるなら、さっそく仕事に入りましょう」
それだけだった。すぐに分かったことだが、アンジーは僕に調査の仕事ばかりでなく、秘書としての仕事や、個人的な助手としての仕事も求めていた。毎朝、僕はアンジーに面会の約束や、何時にどこに行かなければいけないかを伝えなければならなかった。それに書類や顧客への手紙のタイプもした。彼女と一緒に裁判所に出向き、一般席に座り、アンジーが情報を求めた場合、すぐにそれを渡せるように待機することもあった。
彼女と仕事を始めてすぐに分かったことだが、アンジーは、法律のことになると、非常に粘り強いのだった。決して敗訴することはできないと感じてるらしいし、裁判所に行くのを楽しんでいるようだった。アンジーは、自分自身で、よく自分をアバズレ女王と呼んでいたが、弁護士たちの中には、そのアバズレ女王と戦うことになると知ったときに露骨に嫌な顔をする者が、一人ならずいた。一度、ある弁護士が別の弁護士に、彼女はフレンチ・プードルの顔をしてるが、ブルドックの性格だと言うのを小耳に挟んだことがある。アンジーは、その言葉を褒め言葉と受け取っていた。
3か月の見習い期間はあっという間にすぎた。週末も働くのが普通で、まれに週末に仕事を休んだことがあったが、その時を除くと、僕とアンジーはほとんど常に一緒にいたと思う。ランチも夕食もいっしょに食べるのが普通だった。たいていは、アンジーのオフィスの外側のオフィスにあたる会議室で食べる。でも、時々、レストランに行くこともあった。その時はアンジーが支払ってくれた。