「あーあ、今夜の教会のお手伝い、いきたくないなあ」 と、トリスタが溜息をついた。
「どんなことをしなくちゃいけないの?」
「配ぜんのお手伝い」 と、また溜息。「今度の日曜日、教会で貧しい人のために夕食会を開くことになってるのよ」
返事をしようとしたら、その前にトリスタが俺の肩から頭を離し、くるっと向きを変えて、両脚を俺の太ももの上に乗せて、両腕で俺を包むようにして抱きついた。
「今夜、教会に一緒に行かない? 私のママとパパに会うのはどう?」 と、俺の目を覗きこみながら言った。「…お願い」 と言い、優しく俺の頬にキスをした。
「今のようなキスをされたら、断れないよね」 と俺も彼女を抱きしめた。
「ほんとにありがとう、ジャスティン。どれだけ私が嬉しく思ってるか分からないでしょうね」 トリスタは、また俺の肩に頭を乗せた。
俺たちは、しばらく抱き合ったままでいたが、ふと彼女が時計を見た。
「もう帰らなくちゃ。パパが帰ってくる前に車を教会の駐車場に入れておかないと大変なの」
トリスタはそう言って、俺の太ももから両脚をおろした。
二人、立ちあがって歩き始めた。自然と手をつないでいた。出口に向かって歩いていたが、再び、フレデリックスの店の前で立ち止まった。
「いつか、勇気を出して、ここでショッピングをしてみせるわ」 トリスタは俺の手を引き、出口に向かいながら、そう言った。
車に着き、俺はトリスタのために運転席のドアを開けてあげた。彼女は乗り込み、俺の目を見上げながら微笑んだ。俺が助手席に乗り込み、トリスタは車を走らせ始めた。
「家はどこなの?」 とトリスタ。
「あそこの向こう」 と、俺は次の通りを指差した。「じゃあ、君のお父さんはすごくコントロールが厳しいんだね」
「ほんと、そうなの。統制キチガイ」 とトリスタはステレオの音量を上げた。
「ママも、本心では、パパのことをビクビクしていると思う」
「そこを曲がって」 と俺は左に曲がるように指示した。
「パパはいつも、私たちは罪びとで、いつか地獄で火あぶりにあうと言ってるの」 彼女の顔が笑顔から、陰鬱とした表情に変わるのを見た。「パパの言ってること分からないわ… どうせ地獄で火あぶりにあうなら、私なら、その前に楽しむだけ楽しみたいわ」
「ここを曲がって。この通りが家の通りなんだ… あそこに大きな白い家があるだろ? 黒縁の…」
「…ここね」 とトリスタは俺の家の前に車をつけて言った。
「そのとおり」 俺は彼女の車からでなくちゃいけないのを少し名残惜しく思った。
トリスタはギアをパークに入れた。俺は彼女にキスをしたかったが、ちょっと急かしすぎかもしれないと、ためらった。
「じゃあ、今夜ね?」
「何時?」 と俺はドアの取っ手に手をかけながら訊いた。
「7時でいいと思うわ」 トリスタは俺の顔を見つめながら言った。
トリスタも名残惜しくなっているようだと見て取れた。その時、トリスタが顔を近づけてきて、頬にキスした。
「じゃあ、後でね」 と彼女はオーディオのスイッチを押して、ラジオ局を変えた。
俺は車の外に出て、トリスタが走り去るのを見送った。