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ジャッキー 第2章 (2) 


あの土曜日にしたようなキスは、繰り返されることがなかった。しかし、僕が何度も、繰り返されたらいいのにと思ったのは事実だった。

ヒール高7センチのハイヒールを履き、穏当なミニスカートのビジネススーツに身を包んで、陪審員の前を颯爽と歩くアンジー。そんな彼女を見ながら、僕は、もう一度、彼女を両腕で抱き、あの唇にキスをしたらどんな感じだろうと思うのだった。だが、アンジーは、そういう側面では僕にまったく興味がないようだった。

ただ、僕がアンジーの扱う裁判に役立ちそうな別の判例を説明するとき、彼女が僕の脇に立って説明を聞くことが何度もあった。そういう時、彼女は僕の肩に手を置き、何気なく僕のポニーテールをいじったり、長い爪で僕の肩を軽く引っかいたりした。僕たちの間で親密な行いがあったとすれば、それくらいだった。

前にも言ったように、3か月の見習い期間はあっという間に過ぎ、気がついた時には、もう10月下旬になっていた。アンジーは、手に白い封筒を持って、まるで扇であおぐようにそれを振りながらオフィスに入ってきた。その時の彼女の笑顔は、息を飲むような美しさだった。

その封筒を僕に渡しながら彼女は言った。「私の計算が正しければ、これは良い知らせのはずよ。すぐに開けて見せて」

僕は、この三か月、ずっと忙しく過ごしてきていたので期間のことは忘れていた。だから封筒を開け、中に、副調査士への昇進の知らせと、三か月分遡っての給与差額の小切手が入ってるのを見て、僕は驚いた。差額はわりとかなりの額になっていて、僕は、早速それをどう使うかを考え始めた。

アンジーは、そんな僕よりもその通知に満足しているようだった。

「おめでとう! 今夜、一緒に出かけて、あなたの昇進のお祝いをしなければいけないわね、ハニー?」

アンジーは、僕が彼女のもとで働き始めた時から、僕のことを「ハニー」と呼んで話しをしてきていた。最初は、何か意味があるかもしれないと思ったけれど、一週間ほどしょっちゅう聞き続けていたら、僕が期待しているような意味はないと分かった。

「オーケー、でも今夜は僕に払わせてください。アンジーにはいつも払ってもらってるので」と僕は言った。

アンジーはにっこり笑って言った。「それはこの次ね。今夜は私が払うわ。この三ヶ月間のあなたの働きぶりに対して私が感謝している気持ちを伝えたいの」

僕は、アンジーの言うことに反論することは、自分の頭を壁に打ちつけるのと似たようなものだと分かっていた。結局は、彼女は自分の言ったとおりにしてしまう。それに内心、アンジーがそう言ってくれて助かったと喜んでもいた。二人で行ったレストランはかなり高級なところだったからである。

ランチにせよディナーにせよ、アンジーが支払いをするときには、僕はできるだけ安く済むようにしていた。メニューから選ぶとき、価格帯の一番下にある料理を選んだ。でも、このときは彼女は僕にメニューを選ばせなかった
。彼女はサーフ・アンド・ターフ(参考)を注文した。これはメニューに載っている中で一番高い料理だった。それに加えて、1本50ドルもするワインを注文し、何ともないような顔をしていた。

このときも、僕たちは食事をしながらいろいろな話をした。これまでも一緒に食事をするときはおしゃべりをしながら食べるのが普通だったが、このときはちょっと違っていた。

いつもは仕事とかアンジーが担当している裁判のことが話題になるのだったが、このときは、個人的なことが話題で、自分の家族のこととか、過去の恋愛のこととかが話題になった。アンジーは僕に比べるとかなり恋愛経験が豊富だった。もっと言えば、彼女の豊富な経験に比べれば、僕はバージン同然だった。

僕の興味を惹いたのは、彼女が口にした人の大半が男の名前のように聞こえたことだった。ふたつかみっつ、女の名前としても通じる名前があったし、ひとつははっきりしないのがあったが、大半は男の名前だった。もし、彼女に関する噂が本当なら、これは奇妙なことだった。もちろん、僕は改めて問いただすことはしなかった。それは失礼なことになるから。

ディナーを終え、アンジーが支払いを済ませた後、アンジーは僕の左腕に両腕を絡めて抱きついてきた。その格好でお互いの車まで歩いた。アンジーがこんなふうに抱きついてきたことに僕は驚いた。三か月前にしたキス以来、彼女が親密な行動に出たのは、このときが初めてだった。



[2010/04/06] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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