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ジャッキー 第3章 (2) 

二人で前に朝食を食べたことがあるチェーンのレストランに入った。レストランに入る時、アンジーは僕の手を握った。ウェイトレスに何名かと訊かれた時も、彼女は僕に答えさせ、手を握ったままでいた。席に着いた後も手を離さない。

注文した食事が届いたとき、アンジーに訊いてみた。

「ちょっと変な質問なので、答えてもらえなくてもいいのだけど、ちょっと知りたいことがあるんです。昨日の夜、どうして僕にキスをしたのか… それに、どうして僕にこんなに好感を持ってくれているのか… 何というか、あの資料室の出来事の後、夜にキスしてくれたけど、その後、3か月も何もなかったわけなので…」

アンジーは僕の手をにぎにぎと揉み、笑顔になった。

「したくなかったから何もしなかったわけじゃないの。あなたに対する私の気持ちが邪魔になるのを避けたかったの。もし、私たちが、あなたが固定的にこの仕事を担当することが決まる前に、親密な関係になっていたら、あなたは、そういう関係になったから仕事が決まったんだって思うかもしれないと心配だったのよ。私は、あなた自身の力で、私の担当の地位を勝ち取ってほしかった。あなたも、自分の力で勝ち取ったと知りたかったんじゃない?」

アンジーの言うとおりだった。僕は自分でこの地位を勝ち取ったのを確認したかった。その通りですと答えると、アンジーは、あの眩しそうな笑顔を見せてくれた。

レストランを出た後、僕たちはまっすぐ祭りの会場に向かった。会場は広いグラウンドで、訪れる人の車が長い行列を作って、駐車場に入るのを待っていた。ようやく駐車スペースを見つけ、車から降りたが、アンジーはすぐに僕の腕にすがりつき、一緒に入口に歩き始めた。

僕たちの回りには、キルトを履いた男たちばかり。男たち全員がキルトを履いているわけではないが、多いのは事実だ。

アンジーは、身長180センチ以上で肩幅の広い男を見かけては、指をさして、「キルトを履いてるからといって、あの人、男らしくないと思う?」と僕に訊いた。

ゲートをくぐった後、まずは、丸太投げの会場に行った。キルトを履いた男たちが長い丸太を投げる競技だ。なんでそんなことをするのかわけが分からなかったが、確かに男らしい男がするスポーツであるのは間違いない。アンジーは、男がキルトを履くことについての主張をいっそう支持するために、僕にこれを見せたのだろう。

丸太投げの後は、10代の娘たちのアイリッシュ・ダンスを見た。その次はドッグ・ショー。彼女はずいぶん熱心に見ていた。僕に、犬や猫についてどう思うかも訊いていた。僕は犬が好きだが、猫はあまり好きじゃなかった。

ドッグ・ショーの後、アイルランドやスコットランドゆかりのいろいろな物を売るテントを見物してまわった。あるテントでは剣を売っていた。僕はすぐに夢中になり、気がついたら、全長150センチの幅広の剣を買っていた。鋼鉄は最高の品質というわけではなかったが、かまわない。実際に使うものではなく、飾るためのものだから。

テントを見て回りながら、プレードの色とパターンには意味があることを知った。それぞれの氏族には独自の色とパターンがあって、それでもって自分がどの氏族に属するかを他の者に伝えるのである。それにアンジーが来ていたプレード・スカートも彼女の氏族の色柄になってるのに気づいた。

その時、僕は、こういうところを見てまわっていることがどういう意味を持つのか、気づくべきだったと思う。アンジーは、彼女らしい甘美なやり方で、嗅覚を効かせ、まさに彼女が思う通りに行動するまで人を誘導するのである。

キルト・スカートを売っているテントに入った時になって初めて、アンジーが僕を誘導してきたことに気がついた。



[2010/04/28] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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