二週間後の金曜日の夜。翌日は、ブルースとリンダが試しにパーティへ参加できる最後の夜だった。リンダは夕食後、ブルースにパティオに出てお酒を飲もうと誘った。リンダは、この時のために、翌日のパーティに着ていく予定である衣装になってブルースに見せることにした。
ブルースは先にパティオに出て、飲み物を用意していたのであるが、出てきたリンダの姿を見て息を飲んだ。そのブルースの反応は、まさしく、リンダが予想していた反応だった。
黒いドレスは、胸元が深く切れ込んでいて、彼女の胸を最大の効果が出るように見せていた。かろうじて乳房が生地に隠れているというのが正しく、ちょっとでも胸を張ったら、すぐに飛び出してきそうに見える。加えて、これまで身につけたドレスの中でも、こんなにも身体にピッチリとして、丈の短いドレスは、他にないだろう。
靴は、このドレスにマッチした黒いスティレット・ハイヒールで、危ないと思わせるほど、ヒールが高い。このドレスが、簡単に男を誘惑することを目的にデザインされていることに、疑問の余地はなかった。これをまとうことは、すなわち、やって欲しいと男に訴えることを意味する、そんなドレスだった。確かに、輪のパーティの目的は明らかにセックスなのではあるが、それでも、こんなあからさまに淫らさが表に出た衣装を見て、ブルースは思わず息が止まりそうになった。そして妻の姿を見るのとほぼ同時に勃起してくるのを感じた。
「これ、どうかしら?」 リンダはゆっくりと一回転して見せ、両手を左右の腰に当ててポーズをとった。
「すごいよ、リンダ…」 ブルースの声はかすれていた。
「パーティの男たち、これ、気にいってくれると思う?」
「訊くまでもないだろう? 『お願い、ヤッテ!』と書いた看板を着てるようなものだよ」
「ハハハ、可笑しい。でも、頭に浮かんだ印象通りの姿になっているようだわね。とにかく、明日は、非会員として参加できる最後のパーティ。だから、間違いなく正式会員に招かれるようにしておきたいわ」
「ああ、そうだったな。忘れそうになっていたよ。まあ、お前が誰かをとても嬉しくさせることになるのは確かだね。その誰かというのが俺だったらいいのにと思うだけだよ。ひょっとして、今夜、その予行演習をちょっとだけ俺にさせてくれるのかな?」
「そうねえ…」 リンダは同情っぽい声で言った。「でも、私、あのパーティですることとあまり似たことをするのはあまり乗り気じゃないの。知ってるでしょう?」
「いや、ただ、昔の学生時代にしたことを試せるかと思っただけだよ。どうなるか分からないじゃないか。俺がただ運が良かっただけかもしれないが…」
「まあ、それだったら、まずは、ちゃんと証明しないとダメよ。明日の夜… そうしたら、試してみてもいいわ」
リンダが椅子に座り、形の良い脚を組むのを見て、ブルースは痛いほどの欲望を感じた。もともと裾の短いドレスだが、座ると、いっそうずり上がり、リンダのむっちりとした脚の付け根を包んでいる。
ブルースは、この輪のクラブにかかわったことを後悔し始めていた。前だったら… そう、たった1カ月半ほど前なのだが… 前だったら、リンダは、今夜は彼だけを楽しませる存在として、自分だけのものだった。なのに、今では、自分にはほとんど手が届かないと思われる性の女神のような存在になってしまった。
リンダの愛情を得るために、他の男と張り合わなければならない。こんな状況は、学生時代に彼女と知り合って以来、初めてだった。しかも、あまり勝ち目はなさそうだ。だが、少なくとも今は、かろうじて自分も競争に参加してるのは事実だ。何より、ここにいる信じられないほどセクシーで愛しい女性は、自分自身の妻なのは事実だ。その事実に、ブルースはかすかではあるが慰められる思いだった。
「ということは…」と、リンダは続けた。「ということは、あなた、明日、あそこの男たちの誰かに私たちが正式会員になる後援者になってくださいとお願いする心づもりができていると考えていいのね?」
「本当にお前はそれを望んでいると確信できてるのか?」 ブルースは、返事は分かっていたが、あえて問いただした。
「どういうこと? あなたはどうなのよ? 私がたった2週間ほど試しただけで、あれを続けるのをやめたくなったって、本気でそう思ってるの? あなた、あの男たちと比べてどうなのよ? あの人たちより私のことを上手に扱えるとでも? そんなこと本気で思っているの? ねえ、どうなのよ!」
リンダの強気で、煽るような口調に、ブルースは思わずひるんでしまった。こんなリンダは初めてだった。それに驚くほど侮辱的な口調だった。今はリンダが腹を立てられるのは困る。ブルースはそう思った。
「い、いや、もちろん、そうは思ってないよ。ただ、ちょっと確認したかっただけだ」
「でも、あなたはちゃんと思ってるの? 私のために、ちゃんと、お願いしてくれる気があるのかどうか? 私の幸せのためにすることなのよ? どうなの?」
「は、はい… 分かりました、奥様…」 ブルースは、反射的に屈従的な態度に変わっていた。
「それならいいわ。そういう考え方を続けること。オーケー?」
「はい、奥様…… ただ、どちらの… どちらの男性にお願いすべきか、それが分からないのですが…」
「それは気にしなくていいわ。明日の晩に教えるから。もう一人、三人目の男性とも知り合いになりたいと思っているの。その後に、誰に頼むべきか教えるから。分かった?」
「…分かったよ」 とブルースは不機嫌そうにつぶやいた。
「分かったよ、ですって?」
「しょ、承知しました、奥様」
「よろしい。私が誰に決めようとも、あなたにはちゃんと義務を果たしてもらうつもりでいますからね。それも、ちゃんと立派に果たしてもらうと。誠実に、…それに、もちろん、敬意を込めて」
「分かりました。約束します」