ディ・ディはアンドリューの胸から転がるようにして降り、二人ともベッドに横たわった。互いに笑顔で相手を見つめあっている。まさに愛し合う男女の素晴らしい愛の交歓を見せられたようなもの。本当にすごい。ディ・ディが私に言った。
「ドニー? ちょっとだけ息が戻るまで待ってね。その間に、彼にIAMについて話したらどうかしら?」
それにアンドリューも。
「ドニー? こっちに来てくれないか。その話しを聞きたいんだけど、ちょっと君を抱きながら聞けたら、もっと気持ちいいと思うし…」
もちろん誘いを断ることなんてしなかった。ベッドに上がり、ディ・ディとは反対側に横になった。アンドリューは私のお腹に手を乗せた。あまり興奮のレベルを上げることなく肌の触れ合いを感じる、とても自然で良い態勢だと思う。気持ちもいい。彼はもう一方の手を同じようにディ・ディのお腹に乗せているのを見た。この人って、私たちの快適スイッチがどこにあるか、本能的に知っているみたい。
私は話しを始めた。
「IAMというのは、人類向上機構(The Institute for the Advancement of Mankind)の略。南北戦争の前にジョージア州で作られた組織。ハワード・ジョーンズという人物がいた。彼は非常に裕福で、かなり知性も高い。サバンナ(
参考)から内陸部に入ったところに大きなプランテーションをもっていた人…
「ジョーンズは奴隷を所有していて、クォーターホース(
参考)を飼育していたけど、ジョーンズは決して幸福ではなかった。というのも、彼の子供たち、男が二人と女が一人だけど、その子供たちが、そろってろくでなしで、無知性だったから。ジョーンズは、子供たちのどれも、自分が築き上げてきたものを譲り渡す価値があるとは認めなかった。そして自分の死期が近づいているのを知った頃に、彼は人生に欺かれたのではないかと感じたらしいと…。何より彼は知性を大切に思っていたのに、それが子孫たちにはまったく欠けていたのだから…
「ジョーンズの遺言は、普通とは違っていたけど、とても分かりやすいものだった。彼は自分の子孫のことを考えてあげなくちゃとは思っていたんだけど、結局は、質素に暮らすならば快適に生活を営むことができる程度しか残さなかったの。ジョーンズは子供たちは質素な暮らしをするはずがないと思っていたらしいのね…
「大半の膨大な財産はすべて人類向上機構を設立するために残したわけ。この機構の憲章は一つだけ、人類の平均知性を向上させるべく努めること…
「IAM機構の委員会は、この目標を達成するにはどうしたらよいか分からなかった。当時の科学(1850年代だけど)では、遺伝や人間精神の仕組みなどほとんど解明されていなかったから…
「でも、IAMのメンバーだった南部の紳士たちは、ものを育てる経験や知識は十分に持っていたわ。犬や馬や奴隷を、より望ましい性質を持たせる目的のため、何年にもわたって生育してきたのだから…
「だから、彼らが知っている中で平均知性を向上させる唯一の方法は、そういうふうに子孫を作っていけばよいと考えたの。そして、実際に、それを実行したと…
「当時は知性のレベルを測るテストですら簡単ではなかった時代。一般的に、人の精神は、一種の機械のように見られていた。そこで、テストは、主に、刺激への反応の速さとか、視覚の鋭さなどに基づいて行われたの…
「IAMは、こういう基準を使って特定の人たちに子孫を残すよう資金を与え始めた。彼らは、南部一帯に、時には北部にも、人を派遣して、知性がありそうと思われる人々を見つけさせ、テストを行わせた。そして、その人たちに知性がありそうな別の人々と結婚するよう、多額の資金を提供したわけ。そして、そういうカップルが子供を産むたびに、一定額の報酬を与えた。それが始まり…
「次に子孫を残す者になる家系は、IAMが最初に選んだ人々の子孫から選ぶようにした。IAMは、そういう家系をすべて記録し、続く世代に対しても同じ作業を続けた。そのたびに、その時代、時代で用いられている知能テストを使って、どのくらい知性が向上してきたか調べ続けたの…
「ある家族が、テストで(もちろん、その時代、時代でのテストでよ)知性レベルが低いと判定される子供を産んだ場合、その家系は、この計画から外されたわ。もちろん、出産時の事故などで子供が傷ついた場合とかは例外とされた。そういう遺伝とは関係ない要因による場合は除外。選ばれた家系の子供が、別の選ばれた家系の子供と結婚した場合は、特別にボーナスが与えられたの…
「私は当然の帰結だと思うけど、この方法は、実際、効果があったわ。今日でさえ、天才やノーベル賞受賞者たちの性組織を保存している精子バンクがあるものね。そこでは、知性のグラフでベル形の曲線を描いたら、ずっと先の端に属している人の精子によって卵子を受精してもらう、そういう女性がいるもの…
「でも、その過程で、ちょっと変なことが起きた。突然変異なのだろうし、進化と言えるのかもしれないけど、そういう家系では女性の双子が生まれる傾向が目立ってきたの。もっと言えば、その傾向が顕在化した後は、その傾向を持つ家系からは、決して男の子が生まれなくなったわ…
「他の家系は、すべて脱落していった。そして、この女性の双子を持つ家系が、IAM機構の中心になっていったの。その時代になると、IQテストが主流になっていて、それで調べると、すべての女性の双子の平均知能指数は、だいたい150になっていたの。すべての人の平均値の1.5倍ね…