「でも、ここで、事態が進まなくなってしまったの。どの双子女性も純種を生んだのよ。私の言っている意味が分かってもらえるかどうか。つまり、父親にかかわらず…父親のIQの値のかかわらず、母親はおおよそIQ150の双子を出産したの。しかも、各世代につき女性一人あたり生まれるのは双子一組だけ…
「IAM機構の計画は、ここでやむなく停止してしまった。確かに、しばらくは、この双子たちはホモ・サピエンスとは別の種になるのではと考えられていた。だけど、問題は、男子がひとりも生まれなかったこと。現在、私たちも含めて、この機構の双子たちは一般人と婚姻をするようになっているわ。そうやって、現状を突破する状況が来るのを待っているの…
「それに、そもそも、機構の資金もほとんどなくなってしまっているのも事実。ずいぶん前から底をついている。機構は今も私たちと接触を続け、私たちが自暴自棄になった時は支援しようとしてくれているけど、その他の点では、ほとんど何もできなくなっているわ。基本的に、私たちは放っておかれている状況…
「どの双子家族も、もう何年も兆候が出ていないかと探し続けているの。つまり、人類全体の中に、私たちが現状を打破し、ホモ・サピエンスという種から抜け出ることを可能にしてくれるような男性が出てきている…それを示すような兆候を…
「私たちは、そういう男性がどこかに存在すると信じているのよ。実際、次の世代の創始者として私たちが期待する特質を満たしている可能性が最も高い男性はどのようなタイプなのか、それをまとめたプロファイルも作ってあるのよ…
「私たちが探している男性は、非常に高度な知性を持っているが、社会に適合するスキルの発達が、かなり遅くなってから始まるような男性。換言すれば、いわば、子供時代が長いように思われる男性を探しているの。知性は優れているのに、ホモ・サピエンスたちが作った社会には、なかなか馴染めない男性ね…
「アンドリュー? これは昨夜ちょっと話したと思うけど、ホモ・サピエンスは地球に現れてから15万年にもなるけど、『文明化』されたのは、たった1万年前だわ。もっと最近かもしれない。人類は、少なくとも14万年もの長い間、人類が弱小で、周りには危険だらけの世界で、狩猟採集生活を続け、周囲の動物を殺戮せざるを得ず、勝ち目のない戦いを続けてきた。そのことを考える必要があるのよ…
「確かに、人間は知性もあるし、言語のおかげで協力する能力も得たので、この地上で最強の狩猟者になったわ。でも、この世で生存するためには略奪をしなければならないという感覚が、ホモ・サピエンスたちのまさに本質的なところに根深く染み込んでいる…
「実際、『文明化』した最初の頃の人間たちの教えですら、人類に、これとまったく同じ教訓を述べている。いわく、産めよ、増えよと(
参考)。地と動物たちを従えよと。このような教えは、地上に5千万人足らずしか人類がいなかった時代に立てられた規則だった。つまり、野生の動物たちが日常的に無防備な人間を襲い、食べていた時代に立てられた規則だった…
「こういう規則は、生き残るために日々戦い続けなければならなかった文盲の羊飼いたちが作った規則だった…
「でも、時代は変わったのよ、アンドリュー。人間の数は、いまや60億を超えている。人類は、すべての大陸の、どんな辺鄙な場所も含め、ありとあらゆるところに生きている。人類が大地と動物たちを支配していることは、いまや、全世界にとって重荷となってしまっている…
「時代は変わったのに、ホモ・サピエンスは変わっていない。ホモ・サピエンスは進化してきた結果、生まれた種だけど、自分たちが作り上げてきた世界にもはや適合できなくなっている。人類の股間から次の世代の子孫たちが生まれてこない限り、つまり、狩猟する必要も、略奪する必要も、支配する必要も感じない世代が生まれてこない限り、人類も野のけだものも絶滅することになってしまう…
「だから、私たちが探している男性は、ホモ・サピエンスによって作られた世界を自分の居場所と感じていない男性なの。強者が弱者を犠牲にしてもぎ取った世界ではなく、あらゆる者が共有する世界で生きることができる男性。野のけだものを養い、それと共存できる男。環境の使用者ではなく、環境の世話人となることができる人…
「それがあなたなのよ、アンドリュー。もし、私かディ・ディが妊娠していたら、それは、あなたが私たちが探している人であるという証明になるわ。でも、私もディ・ディも、すでにそれを感じているの。どこか変わったって。あなただって分かるの。あなたは私たちの同類だって。あなたは、次の世代の創始者になるって…