だが、その後、日増しにスーザンは家に戻ってくるのが遅くなっていったのだった。彼女が不在となる頻度がだんだんと増えていき、その時間も長くなっていった。何か警報が発せられてる感じだった。二人の関係で、何かが変わってしまったのではないかと、僕は不安になっていった。
理由を訊いても、彼女は仕事のせいだと言って、無視していた。彼女が見せる視線の様子、あるいは視線を避けるそぶりこそ、僕の疑惑をいっそう募らせる要因だった。
確かに二人一緒にいるときは、スーザンは愛情を寄せてはくれていたが、それでも僕は、何か以前にはなかったようなヨソヨソしさを感じていた。何か得体のしれないものが、僕たちの生活に徐々に忍び込んできていて、僕たちを分断させている… そう感じた僕は、その正体が何であるかを明らかにしようと決意した。
その、得体のしれない「何か」。それが今、僕の前のディスプレーの中で再生されている。二人はまた付き合い始めたのだ。僕には想像できないような高度に進んだ電子機器を使った捜査のおかげで、二人の姿がディスクにしっかりと捉えられている。
高校時代からすでに、ジェフ・スペンサーは、その男性的な逞しい体格のおかげで、女子たちには憧れの的に、男子たちには羨望の的になっていた。いま、ジェフは、あの時代よりもさらに逞しくなっていた。僕は身長170センチなのに対して、彼は198センチはありそうだった。体重も僕より40キロは多いだろう。それも決して脂肪などではなく、すべてが全身を覆う岩のような筋肉の重さだ。
ジェフは妻に愛の行為などはしていなかった。肉欲に任せて犯してるといった方が正しかった。太い25センチ以上もある道具を使って容赦なくスーザンの身体に打ち込みを続けている。
発情した二匹の動物が身体をぶつけあっている。ビデオを見ながら、その場の淫らな匂いが嗅げるほどの淫らさだった。情け容赦なくパンチを連打し、殴りつけるようなセックスをされているにもかかわらず、スーザンはそれを全身で受け止め、喜んでいる。それは疑いようもなかった。絶頂に達した時、白目を剥くのが見えた。全身を痙攣させるのが見えた。そして喜びの絶叫を轟かせ喉を震わせるのが見えた。
念のために述べておくが、僕は妻を満足させていなかったわけではない。彼女を絶頂に導くことは僕の得意としていることである。僕は舌や指先だけを使って、何時間も彼女を焦らし、燃え上がらせ、興奮させ、最後には強烈なオーガズムをねだり泣くようにさせることができる。そして最後にもうひと押しして彼女を限界から解き放つと、妻は僕の髪をつかみ、僕の顔を股間に強く引き寄せ、実に長く強烈なオーガズムに達して、身体を震わせるのだ。
だが、そのようなオーガズムと、ジェフが与えているオーガズムとはまったく質が異なることは、どんな男も分かることだろう。僕は、侮辱された思いだったし、怒りも感じたし、裏切られた思いでもあった。何より、喪失感が大きかった。
探偵は、過剰なほど細かな点まで調べ上げていた。まさに、提供した報酬の最後の一円まで使い切った完璧な仕事をした。その調査員は、別の調査会社が僕の件に加わろうとしているのを知ると、即座に、妻の浮気以外の事項にも調査を拡大して、サービスを強化した。例えばジェフの習慣や嗜好なども調べ上げた。その調査は見事なものだった。ジェフが僕のふしだらな妻を犯すこと以外にどんな行動をしているか、それを知った時、僕は、それがあまりに信じられないことに、ただただ呆れて頭を振るだけだった。マイルドな言い方をするなら、スーザンが僕に対して誠実でないのと同程度に、ジェフもスーザンに対して誠実ではないということだ。
何か暴力的なことをして報復する。そういう考えも頭に浮かんだが、その考えは、頭に浮かぶと同じくらい早く、頭から消えた。「完全犯罪」ができるなどといった甘い幻想は、僕とは無縁だ。そういう極端な手段に出て一時的に満足したとしても、監獄で一生を暮すとなれば、何の意味もないだろう。
ジェフが女癖が悪いことは彼の弱点であり、考えようによっては、僕に有利になるよう利用できるかもしれない。適切な計画を立てるには時間がかかるものだ。さしあたって今は、ジェフと妻の二人とも、楽しませておくほかないだろう。
調査会社は、上で述べたフォローアップの調査をする過程で得た別のDVDも提供してくれた。それに映っていたどぎついシーン。それを見て、僕は、自分の中に潜んでいたあるものが点火するのを感じた。
漠然としか知らなかった世界、曖昧な言葉でしか触れられてこなかった世界。そういう世界への憧れ。その世界は、僕たちがこの都会に住むようになって以来、確かに僕の周りに存在していたが、今までは一度もそれについて考えたことはなかった。
それが、目の前のディスプレーに映し出されている。それに直面し、僕は、その世界を探ってみたいという衝動に駆られた。仮に、スーザンとジェフに復讐をするとしたら、この世界こそが、手始めの場所となるだろうと考えた。それに、今となっては、僕には失うものなど何も残っていないじゃないか、と。