「今夜はすごい夜になりそうね、あなた。お願いだから、私が恥ずかしくなるようなことをしたり、言ったりしないでね」
「ご心配なさらずに、奥様。約束します。本当に!」
「もう一つ、いいかしら?」
「何でしょう、奥様?」
「ズボンの前、膨らんでいるように見えるけど、見間違いかしら? あなた、硬くなってるの?」
「あっ、えっ、ええ…奥様。どうしてもこうなってしまって…」
「あのねえ…」 リンダは諭すような口調で言った。「リロイは、自分の女に対してあなたがイヤラシイことを考えてるのを見たら、不愉快になるんじゃないかしら。そうは、思わないの?」
「そのとおりだと思います、奥様。すみません」
「今夜はトランクスは履かない方がいいわね。一番きついブリーフを履いてちょうだい。ピチピチのやつ。二枚重ねで履くといいわ」
「なるほど、いい考えですね、奥様。そうすることにします」
「そうすれば、とりあえず今夜はその問題は起きないはず。別の方法もあるけど、それについては後で話し合うことにするわ。じゃあ、着替えてきなさい!」
ブルースは着替えをするためにいそいそと二階へ向かった。
「あと、自分で触っちゃダメだからね!」 リンダはブルースの背中に呼び掛けた。
ちぇっ! リンダに心を読まれているようだ。今夜は長い夜になりそうだ、とブルースは思った。
その30分後、リロイが到着した。玄関にはブルースが出た。
「ようこそ、いらっしゃいませ。おいでいただけるとは、とても嬉しく存じております」 ブルースはごまをすりつつ迎えた。
「バカか? 来るって言ってただろうが。何がおいでいただけるとは、だ!」 そう言ってリロイは大笑いした。
ブルースはうつむいた。一緒に笑ってよいものかどうか分からなかったからだ。
「俺のオンナはどこだ?」
「あなた様がおいでになったことを、お知らせしてきます」
ブルースはそそくさと二階に上がり、寝室に入った。リンダは化粧に最後の仕上げをしているところだった。
「奥様、リロイ様がいらっしゃいました」
「飲み物を差し上げた?」
「今からです。すぐに差し上げます。リロイ様は、お着きになったことを奥様にお知らせするようにとのことでしたので…」
ブルースは、階下に戻ると、さっそくリロイに飲み物の要望を尋ねた。リロイは、自分に対して、どんな気まぐれな注文にもすぐさま飛びつくようにして答えるよう踏んでかかっているようだ。ブルースは、この19歳の若者にへつらいながらどうしても屈辱を感じてしまうのだった。
リンダが二階から降りてくると、リロイは立ち上がり、いちど彼女の全身を眺めた後、両腕に抱きよせ、長々とキスを始めた。
ブルースは、その二人の姿から目を離せなかった。いまここにいるのは自分の妻なのである。その妻が若い黒人男の腕に包まれ、うっとりと眼を閉じ、自ら体を押し付けている。そして男に自由に口の中を舌で探らせている。それを喜んでいることは明白だ。
突然、ブルースは自分が覗き見をしている邪魔者のような感覚に襲われ、ぶしつけにならぬよう目をそらした。
ブルースは、自分自身はキスをしているわけではないのに、ほとんど自分が間接的に二人のキスを楽しんでいることを悟った。なぜかリロイの立場に自分を置き換えて二人を見てしまうのだった。飼いならされた夫の前で、その夫の妻にねっとりとキスをする自分…
ブルースはそんなことを想像して興奮している自分を嫌悪したが、同時に、きついブリーフを二枚重ねで履いていて良かったと安心もしていた。
ようやくリロイとリンダはキスを解き、腰を降ろした。ブルースはリンダに飲み物の所望を尋ね、それを作るためにキッチンに引きさがった。
できた飲み物を持ってリビングに戻ると、二人はすでに体を密着させて座っていた。リロイは大きな手をリンダの脚に乗せていて、優しく愛撫していた。リンダは脚を組んでいたものの、すっかり脚全体を露出しているといってよい姿だった。
ブルースはその魅惑的な美脚を見つめないようにと努めながら、コーヒーテーブルの上に用意した飲み物を置いた。
「奥様、どうぞ」
そう小さな声で言い、自分の飲み物を作るために再びキッチンに引きさがった。
自分のお酒も用意してリビングに戻ってくると、二人はまたもキスをしていた。だが、今回はリンダは手をリロイの脚の間に添えていて、リロイの手は彼女の胸に位置を変えていた。リンダはキスをされながら、悩ましいうめき声をあげていた。