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ジャッキー 第5章 (6) 

アンジーは毛先をトリムすると、今度はヘア・アイロンを出して、数分間、あてた。それからブラッシングをしてカールを整えると、さらにカール用のブラシを手にし、それも数分間、使った。その後、僕の頭にスプレーをかけ、もう数分間、整髪を続けた。ようやく手入れが終わり、僕は髪をどんなふうにされたのか、今すぐにでも見てみたい気持ちになっていた。

アンジーは僕の前に立ち、全体を見回したうえで言った。

「まあ、ほんとに可愛いわ。ちょっとお化粧をしたら、本当の女の子のように見えるわよ」

「そんなのありえないと思うけどね」

アンジーはくすくす笑いながら、鏡の前に垂らしていたタオルを降ろした。鏡を振り返り、その中で振り返りながら僕を見ている人が目に飛び込んできた。信じられない。ヘアスタイルがまったく変わっていたばかりでなく、顔自体も変わっていたのである。

普段はストレートな髪で、後ろにまとめてポニーテールにしているのだが、今は綺麗なカールがいくつもできている。アンジーほどたくさんのカールではないにしても、かなりの数だ。それに全体としてウェーブがついていて、僕の顔の表情をかなり柔らかいものに変えていた。僕を見ている僕の顔は、依然として男性の顔ではあるのだが、男らしさのようなものが、もはやなくなっているのだった。

「ほら、言った通りでしょ?」 アンジーに声をかけられ、僕は茫然とした状態から我に返った。

「分からないけど、確かにそう思えるところがあるのは分かるよ」

「ほんとよ、信じて。ちゃんとお化粧したら、たいていの人をだませるわ」

ちょうどその時、玄関のチャイムが鳴った。

「ピザ屋さんね。さあ、一緒に下に降りて、テレビでも見ながら食べましょう。玄関には私がでるわ」

そう言ってくれてほっとした。こんな格好でピザ屋を出迎えるなんてありえない。

アンジーは寝室用のふわふわのスリッパを履き、それと同じものを僕の方に投げた。それから、玄関に出るために寝室から走って出て行った。

スリッパに足を入れたが、ちょっと僕にはきつい感じだった。アンジーとは他のところではほとんど同じサイズだが、靴のサイズだけは違うのだろうと思った。

階下に降り立ったとき、アンジーは玄関ドアを閉めたところだった。彼女はくるりと振り向き、僕にピザの箱を手渡し、テレビ部屋と彼女が呼んでる部屋の方向を指さした。たいていの人は、その部屋をリビングルームと呼ぶだろう。

その部屋に入り、コーヒーテーブルの上にピザを置いた。アンジーはワインを1本とワイングラスを二つ持って僕の後に続いて部屋に来た。彼女はそれぞれのグラスにワインを注ぎ、ソファの上、僕の隣に腰を降ろした。ピザを食べながら、彼女はこう言った。

「私たちの関係について話しあわなければいけないわね。それと私たちの関係を会社ではどうするかも」

「ということは、他の人には僕たちの関係を知られたくないということ?」

「いやな感じに思わないでね。あなたが新しいポジションについたわけだけど、私、他の人たちに、あなたがその地位を身体を使って獲得したなんて思われたくないのよ。でも、あなたのことが好きになったので、新しいポジションにつけることにしたのは事実だから。二か月ほどしたら、私たちがつきあってることを教えてもいいとは思っているわ。問題ないと私は思ってる。でも、さしあたり今は、二人だけの間にしておいた方が良いと思うの」

そのことについては僕もすでにかなり考えていた。アンジーは僕にとって、上司に当たるわけで、彼女が僕とのことで彼女自身の上司たちと問題になることは避けたかった。

「それが良いと僕も思う。これまでと同じに振舞うべきだと思う」

アンジーは僕を抱きしめた。

「ちゃんと分かってくれてるのね。あ、それにもうひとつ。私がレスビアンで、男嫌いだと言う噂について。お願いだから、その噂についてはそのままにしておいてほしいの。あの噂を、むしろ私に有利に働くようにいろいろ仕込むのにずいぶん長い時間がかかったのよ」

僕は唖然とした顔をしていたようだ。それを見てアンジーは声を上げて笑った。

「会社にいる、自称イイ男どもが、私がレズじゃないって知ったらどうなると思う? 蜂蜜にたかる蜂のように群れをなして私に襲いかかってくるわ。連中が私はレズだと思ってるなら、あの男どもも無駄なことに時間を使わないで済むのよ」

僕はなんてこったと頭を振った。それを見てアンジーは笑い、もう一口、ピザにかじりついた。


[2011/01/14] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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