妻の浮気を疑ったあの最初の夜も、そして次の日の夜も、バーバラと顔をあわせ、話しをするのは困難さを伴うものだった。スティーブは根が家族思いの男ではあったが、結婚して初めて、妻のそばにいたくないと感じたのだった。
金曜日、ジョンが大型の薄い封筒を持って建築現場を訪れ、オフィス代わりのトレーラーにいるスティーブの元に持ってきた。ジョンは、トレーラーの中に入ると、目にもはっきり分かるほど、安堵感を示した。改造された移動家屋の頼りなげな壁ですら、それに囲まれると安らぎが得られる。現場には、あまりにも多くの大型機械が立ち並び、そのエンジンは耳をつんざくような唸り声を上げ、ジョンの心の平安に、いらぬ動揺を与えた。巨大クレーンで、鉄鋼の大梁が最上フロアに吊り上げられていくのを見るだけでも、ジョンにとっては、めまいを感じ、気持ち悪くなる。彼は、屋内に入れて安心した。ここならスティーブが安全を保障してくれるだろう。
スティーブは、怖がる兄を見て、小さく微笑んだ。ジョンの汗をかいた額、それにおどおどした話し振り。スティーブにとっては陰鬱な一日ではあったが、それでも、その兄の姿はユーモラスで、少しだけ笑えるところがあった。スティーブはジョンに付き添って、彼のボルボが置いてあるところまで一緒に歩いた。歩きながらも、絶えず感謝を忘れなかった。ジョンは歩道の端に立ち、スティーブに手を振り、近々、夕食を食べに家に来るよう、スティーブに約束させた。・・・本当に、すぐにでも家に遊びに来るようにと。
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夜も更け、あたりは静かになっていた。現場にいるのは、スティーブと、銃器を携帯した3人の警務員だけだった。スティーブは、ホルスター(
参考)に入れたままの45口径セミ・オートマティック大型銃をデスクの上、自分の前に置いていた。現場から帰るときには、そのホルスターを右脇のベルトの上に付け、クリップで止めることにしている。
夜の建築現場は危険な場所である。麻薬中毒者やアル中たちは、身を隠し、その悪癖に浸れる新しい場所を常に求めているものだ。それに、みみっちい窃盗団もいる。いや、それほどみみっちい連中とは言えないだろう。彼らはいつも、資材置き場にある銅管などや様々な建築材料を狙って、それを盗み、どこかで売りさばこうとしている。スティーブが最初に行った仕事のとき、労働者が2人ほど、そのようなハゲタカどもに殴られた。その後、スティーブは銃器保持許可を得て、以来、ほとんどいつも銃を携帯する習慣になっていた。
ジョンが帰って行った後の午後は目が回るほど忙しく、スティーブには、ジョンが持ってきた封筒の中身を、ゆっくり腰を降ろして検討する余裕がなかった。今、その大型封筒の端を指でちぎって開けているところだった。彼の指は震えていた。心は、見たくないと伝えていたが、理性で、見なければならないと言っていた。