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ひどい一週間だった。週とはいえ、実際には金曜の夜にダイアナのアパートから逃げ帰った時から始まり、あの長く、何もできなかった土日も含むのであるが、この一週間は大変だった。
月曜の朝、僕は会社に欠勤の電話を入れ、個人的なことに時間を使った。その後、スーザンが確実に家にいない時をみて、僕たちの住処のロフトであるプリンターズ・ローに戻り、僕の衣服や持ち物を回収してきた。このロフトは分譲マンションに変わる計画になっていた。僕がまだ、その変更契約にサインをしていなかったのは幸いだった。
部屋を出るとき、楽しかった記憶を思い返しながら、僕たちのーーあるいは、僕だけのーー幸せだった住処を最後にもう一度振り返った。そして、僕は玄関を出た。僕の背後で自動ロックのドアがカチャッと音をたてた。僕とスーザンの関係の終わりを告げる音に聞こえた。
まずは、離婚のための書類を用意した。その際、「公然で、かつ悪質な不貞」(
参考)という言葉を使った。僕の弁護士は、DVDを見た後、僕の裁判はスラムダンクになると保証してくれた。有無を言わせぬ圧勝ということなのだろう。
経済的側面でも、スーザンとの離婚は同じく簡単に済むとのことだった。手続きを進めるときに、いくつか前もって注意していたのが良かったのである。つまり、銀行口座を別々にしておくとか、資産の保護をしておくとか、外国に土地を所有しておくとかである。
スーザン個人の収入に加え、相手の男が百万長者であることも考慮に入れれば、彼女は僕の資産を当てにする必要はないだろうし、そもそも、法的にそうする立場にはないのである。僕の弁護士が吐き捨てるように言った。
「財産関係で奥さんにできることと言えば、前のめりになって尻を突きだし、自分で尻頬を広げておねだりすることくらいだね。そんなことも奥さんなら平気でできそうだが」
彼の言葉に僕は内心、ゾッとした。彼は、早速、裁判所に書類を送り、翌朝、ちゃんと処理されたか確かめると約束した。
火曜日のお昼ごろから携帯電話が鳴り始めた。スーザンは先の週末も月曜日も、まったく電話をよこさず、僕の安否を確かめる気などなかったのに、おかしなものだ。多分、僕が週末に帰宅していなかったことすら気づいていなかったのだろう。
発信者のIDですべてが分かる。僕は、即座に職場の電話をスーザンからの電話を拒否するように設定し、会社の受付にも、スーザンから電話があっても取り次がないよう指示した。彼女は連絡方法を携帯の方に変えたのだろう。携帯のディスプレーには「プライベートな発信者」とあった。僕はまた簡単にだまされるつもりはない。携帯にかかってきても出ることはせず、放置し、留守電に切り替わるにまかせた。
火曜日の午後、僕は、ノース・ピア(
参考)から通りひとつを隔てたストリータービル(
参考)にある購入権利込みの賃貸マンション(
参考)を借りる契約をした。寝室が二つある快適そうなマンションで、窓からは、オグデン・スリップ(
参考)とその先のミシガン湖が見渡せ、息をのむような素敵な眺めが楽しめる。僕はボートが好きで、これまでもオグデンスリップに行き、ボートのオーナーたちが近くのレストラン街でディナーを取ってる間、彼らのレジャーボートを見て楽しんできたのである。次の夏が楽しみだった。ともあれ、何か楽しみに待つものがあるというのは気分的に良いものだった。
続く三日間は、特にきっちりと計画を立てずに、あちらこちらを駆けまわりながら必需品を買い求めることでいっぱいだった。仕事の後、勤めている商事会社の同僚や同業者の仲間たちとの付き合いがあった。会社のクチコミ網はすでに僕と妻の間に何かがあったことを伝えていて、誰もがその話題を避けた。
僕の新しいマンションは豪華だったし、新たに備え付けた家具類のために一層、高級感が増していた。他の住民は、概して若く、紳士的であり、かつ最新流行に敏感な先進的人種だった。夜ともなると、周辺のレストラン、クラブ、商店などにどこからともなく多くの人々が集まってくる。