母は混乱してる様子だった。だが、これは母にとっては珍しいことではない。
「アンドリュー? 私はね、いつお前が女の人を家に連れてくるだろうかっていつも思っていたんだよ。だけど、同じ時に二人の女の人を一緒に連れてくるなんて、思っても見なかったよ。何か私に話すべきことはないのかい?」
ひょっとすると、なんだかんだ言っても母はそんなに愚鈍というわけでもなさそうだ。もしかすると、ディ・ディとドニーが二人とも、ちょっと僕を独占するような雰囲気を漂わせて僕を見ていたのかもしれない。だが、二人ともまったく落ち着きはらって、おしとやかにしているようだ。一方の僕は、かなりドキドキしていた。
「あー、お母さん? ディ・ディとドニーと僕は、何と言うか、その…永遠の一体のようなものなんだ。僕の言ってる意味が分かってくれればいいんだけど…」
「いや、アンドリュー、私にはさっぱり分からないよ。永遠の一体って、一体どんなことなんだい?」
母は僕の母親なのだし、母に、自分の息子は変態だと言わなくてはならないのは、誰あろう僕以外にいない。だが僕が落ち着かなくなって、まるで初めてガールフレンドの父親に会った十代の青年のようになってるのを見たのだろう。彼女たちが、後を引き継いだ。
「アドキンズさん? ディ・ディと私は、あなたの息子さんと恋に落ちたんです」とドニーが言った。
「それが非慣習的なことは知っていますが、そうなってしまったの。それに私たちは、あまりにアンドリューのことを愛してしまい、慣習を順守してないからと言って彼との愛をやめることができなくなっているんです」 とディ・ディが言った。
「慣習」とか「非慣習的」とか「順守」とか……このアプローチは母には取らない方が良いのじゃないかと僕は思った。母は、ときどき、「ザ・プライス・イズ・ライト」(
参考)のボブ・バーカーの使う言葉に困惑することがあるのである。
だが、この時は母は話しについてこれていたらしい。女同士では何か了解し合えるものがあるかもしれない。
「あなたたち二人いるわけよね。アンドリューはあなたたちお二人とも欲しいと? アンドリュー? それはちょっと欲張りじゃないの? 二人ともとても綺麗な人。だけど…あの……歳が違いすぎない?」
「お母さん、お母さんが言えることで、僕たちがまだ考えたことがないことは、何にもないよ。歳が違うのは知ってるよ。それに女性が二人ということも知ってる。でも、そういうことを踏まえたうえで、三人で暮らしていきたいと思ってるんだ。僕は彼女たち暮らしててとても幸せなんだよ」
「もう一緒に暮らしてるの? まあ! あの…将来、結婚の計画があるの? お願いだよ、アンドリュー、どちらか一人としか結婚するつもりはないって言っておくれ。気を悪くしないでね、お嬢さん方」
ディ・ディとドニーは二人ともにっこりと笑った。あの、二人特有の瞳を輝かせた笑みだ。ドニーが答えた。
「ご心配なさらずに、アドキンズさん。アンドリューはディ・ディとだけ結婚します。でも私も二人と一緒に暮らすんです。決して法律に反したりはしませんから、その点はご心配なさらないでください。でも、私もあなたのお孫さんを産むんですよ」
いつものことだがドニーは的確な言い方をする。母は長年僕のことを心配し続けてきた。ガールフレンドもいなければ、結婚もせず、子供も持たず、孫もないと。母は、僕に突然ガールフレンドができて、しかも二人も連れてきて圧倒されていたかもしれない。だが、孫まで話しに出るとなれば、母の思考過程をスローダウンさせるのに十分だった。
「まあ、孫ですって! あなたたち子供を産むつもりなの? 多分、ちょっと歳を取り過ぎてると思ったの。気を悪くしないでね。でも、もしかすると人の命の時計は最近、伸びてきてるらしいし…」
ディ・ディが答えた。「アドキンズさん。私たち二人とも赤ちゃんができてるんです。最初の3か月ですが、間もなくアドキンズさんはまたおばあちゃんになるんですよ」
母はドニーの方を向いた。「おやまあ! そうねえ、結婚しなければいけないようよ。ディ・ディ? あなたがうちのアンドリューと結婚する人よね? それともこちらの方だったかしら? お名前はなんでしたっけ? もう一度…」
「ドニーです。私が。私がドニー。ディ・ディは私の姉で、その通り、彼女がアンドリューと結婚する人です」
「ああ、もうすっかりややこしくなってるわ。そうじゃない?」 と母はディ・ディの方を向いた。「あなたのお姉さんがアンドリューと結婚すること、どう感じてるの? やきもちを焼かない?」
ディ・ディが答えた。「ディ・ディは私ですよ。私がアンドリューと結婚するんです。でもドニーはやきもちを焼いたりしません。私たちのどちらが公的な書類に名前を載せるかは、関係ないんです。私たち、気持ちの上では二人とも彼と結婚してるんです。今この時でも」
母は、独り言を言いつつ、また同じことを繰り返し始めた。「あなたたち二人ともアンドリューと結婚する? それって法律に反しない? 全部、まずは弁護士さんに訊いてチェックしておいた方がいいかもしれないね。私なんか、夫が二人いて、二人とも世話をするとなったらどうしてよいか分からないもの。アンドリュー? その点は大丈夫なの?」
「お母さん、ディ・ディは結婚してもいいかもと言ってるだけだよ。それほど僕たちは互いのことを思ってると、それだけ。分かった? 僕たちまだ結婚していないんだ。これから、僕はディ・ディと結婚しているという公的書類を出すけど、でもドニーとも結婚してるように行動するつもりなんだ。心の中ではそうなっていると思っているから」
母は、わけがわからない物事に出会った時にいつも取るアプローチを取ることに決めたようだ。はあーとため息をついて、言った。
「お前、そすると良いね。誰かアイス・ティーが欲しい人いる?」