9時になり、仕事を開始した。だが、実際は、それほどハードな日ではなかった。というのも、アンジーが割り当てられた訴訟案件の大半は、まだ交渉段階にあるか、後は裁判が行われるのを待っている状態かのどちらかだったからである。それに、僕たちの次の裁判は、感謝祭の休暇の後までなかった。もちろんアンジーには他の訴訟案件もあり、その仕事もあったが、特に緊急に決着をつけなければいけない案件はなかった。
アンジーが同僚の一人と雑談しに席を外していた時、受付嬢が僕が注文した花束を持って入ってきた。
「気を利かしたわね、ジャック。それにご昇進おめでとう!」 と受付嬢は僕に花束を渡しながら言った。彼女がカードを読んだのは明らか。僕はカードに過剰に感情を込めた言葉を書かなくて良かったと思った。
アンジーは戻ってきて、花束を見ると、「ジャック、こんなことしなくても良かったのに…」と言い、花束のところに行き、カードを読んだ。そして僕のところに来て、頬にキスをした。それから、もう一度、誰も部屋に入ってこないことをチェックしてから、言った。
「これは昇進のお礼? それともこの週末の?」
「両方です。ただ、ここの人に訊かれたら、昇進のと答えるけど。今の地位につけて、とてもうれしいのは事実だし」
アンジーは僕の手を取って、ギュッと握った。「私は、他にもあなたがついたところを見たいと思ってる地位が二、三あるのよ」
「うーん、面白そうですね。どんな地位か訊いてもいいですか?」 と僕はできるだけ小さい声で言った。
アンジーはまた強く僕の手を握った。そして、「今はダメ、待ってて。さあ、仕事に戻って」と言いい、また僕の頬にキスをし、僕を仕事に戻させた。
正午になり、アンジーは僕たちのためにランチを取りよせ、その後、1時に彼女は約束があると言って出て行った。僕が管理していた彼女の予定にはなかったことなので、どんな用件なのか分からなかった。だが、このようなことは珍しことではなく、アンジーの場合、これまでも頻繁にあったことだった。普通は、彼女の弁護士仲間との面談などの用件である。アンジーは4時には戻ってきて、その後、すぐに仕事に取り掛かった。
その日は、アンジーと僕は夜の7時まで仕事を続けた。週末に余計な邪魔が入ると嫌だからと彼女は僕に言った。
「新しい恋人ができたので、週末は全部フリーにしておきたいの。そうすれば思いきり楽しめるでしょう?」
ちょっと変だったのは、アンジーが他の人に僕たちの会話を聞かれるのをあまり気にしていないところだった。
仕事が終わり、二人で夕食に行った。アンジーが選んだレストランで、彼女のおごりだった。僕が、前に、この次いっしょに食べに出るときは僕が払ってと言ってたはずと苦情を言うと、彼女はこう答えた。
「もう、私におごってくれたじゃない? この前の土曜の朝食のこと忘れたの?」
いかにもアンジーらしい応答だった。こういうふうに彼女は僕が予想しない形で、経済状況の差を補ってくれるのだった。
食事の後、僕たちはそれぞれの車に戻った。何分か抱き合い、キスをした後、僕は訊いた。
「今夜、君の家に行ってもいい?」
アンジーはちょっと考えた後、答えた。
「…ダメ。今度の週末まで待ちましょう。今夜、愛し合っちゃったら、なんだか慌てた時間になっちゃうと思うの。私、二人でいるときは特別な時間にしたいの。週末は丸々、二人でプレーできるから……」