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無垢の人質 第9章 (7) 

イサベラは午前中、クックという付き人の女性と過ごしていた。クックは小柄な女性であったが、その棘のある言葉使いと、青い瞳が発する鋭い視線で、城の最強の衛兵たちですら震えあがる存在だった。

クックは、イサベラが城に来た次の日に、イサベラの付き人をしたいと求めたのだった。イサベラは、この城の女主人として、城の主であるレオンとその部下たちが必要とするさまざまな物事をきちんと覚えるのが義務であると主張し、付き人であると同時に教育係になることを要求したのである。

イサベラは、それを聞いた時、あまりに驚き、抗議の言葉を呟くことすらできなかった。そして、気がついたときには、さまざまな料理のレシピと、貯蔵所に蓄えられているスパイス、野菜、乾燥肉の膨大なリストに取り囲まれ、最初、その週の食事のメニューを計画する時にはクックの助言に大いに頼らなければならなかったのだった。

午前半ば、執事がイサベラの元に来て、召使いたちが冬の期間中に身につける衣服の布地について指示を仰いだ。イサベラは、クックが頷いて承認するのを見てから、躊躇いがちに数反のウールの布地と、縁飾り、リボン、革布などを注文した。イサベラは、このような贅沢をレオンが許してくれるよう祈った。特に、彼女が召使いたちの下着として柔らかなリネンの布地でなければいけないと強く主張した時、クックと執事が驚いたのを見て、そう祈った。そして、すべての布地をレオンがいつもお揃いで身につけている色である金色と黒にそろえて注文することで、彼の気持ちを懐柔できたらいいと願った。

午後も半ばになってようやく彼女は自分の時間を得ることができた。階段を降り、そこで息が切れるのを感じ、立ち止まった。イサベラは、最近、自分が疲れやすくなっていることに気づいていた。確かに、眠りに着くときは、レオンは彼女を守るように暖かく両腕に包み抱いてくれている。だが、それにもかかわらず、しばしば、悪い夢を見ており、目が覚めてもどこか憔悴し、心が落ち着かない気持ちだったからである。イサベラは、そのことをできるだけレオンに隠し続けていた。彼を心配させたくなかったからである。だが、レオンは、イサベラが自分の方を見ていないと思っている時など、心配そうな視線で彼女を見ていた。そのレオンの様子を知ってるイサベラは、彼を心配させないようにしようという試みがうまくいっていないことを悟るのだった。


[2011/04/28] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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