「そうだね、お若い人…。ところでお名前はなんでしたっけ…。いや、どうなんだろうねえ…。まずは、わたしも生活していかなくちゃいけないし。それにちょっと旅行してみたい気持ちもあるんですよ。何せ、西はアトランタ、東はサバンナ(
参考)の先には行ったことがないのでね。あと、この古い家もなかなか維持するのが大変でね。ましてや芝生の手入れなんかできなくて。申し出してくれるのはありがたいですよ。でも、真剣にこの組織を運営する気がないなら、お構いなく、放っておいて欲しいものですな」
僕は対策を立てるべき時が来たと思った。
「ジョーンズさん、自己紹介もせずに失礼しました。私はアンドリュー・アドキンズという者です。ちょっと話を先に進める前に、私の二人の仲間と話しをさせていただいてもよろしいでしょうか? 私たちは、本当に、ただこの組織を見学に来ただけなんです。買い取ろうという気はまったくなかったもので。もしよろしかったら、私たち、ちょっと外に出て、話し合いをすることにしたいのですが」
そう言い、僕たち三人は建物の外に出て、庭を歩き始めた。懸念を最初に声に出したのはディ・ディだった。
「アンドリュー? 気でも狂ったの? この組織、どうやって運営するつもり? 実際、何をしている組織なのか、それすら分かっていないのに。組織にはどんな情報があるかも知らないし。それに、この邸宅はどうするの? 大恐慌の時から、一度もペンキを塗りなおしていないみたいじゃない」
「でも、君はどう感じたのかな?」
実際、ドニーは僕の立場を支持する側に回った。「アンドリューの言うことが正しいかもしれないわ。私たちが何かしなければ、IAMは消滅してしまう。もしIAMが消滅してしまったら、次の世代への希望も、一緒に消滅してしまうわ」
僕も話しを加えた。「まずは、この小さな町では高速のインターネットアクセスが可能かどうか調べなくてはいけないな。高速アクセスなしでは、何もできないからね」
「それって、何かのフェチなの? 自分たちの一生を変えることについて考えているのに、あなたは、高速アクセスのことを言っているなんて」 とディ・ディ。
僕は理屈を分かってもらおうとした。「でも、大事なことなんだよ。高速アクセスがなければ、組織再建はできないんだ。最重要事項なんだよ。双子たちを扱うために僕たちが考えている主要な方法として、インターネットの利用を考えているんだから。毎年、1万枚の報告ビラをガリ版刷りで送るつもりはないのは当たり前」
ドニーが口をはさんだ。「おカネの話しをしましょう。あのおばあさんにいくら提供するつもりでいたらいいかしら? 真剣に考えなくちゃ。この邸宅は素晴らしいものなんかでは決してない。住めるように改築するだけでも大金が掛るわ。それで、アンドリュー? あなた、つぎ込まなくちゃいけないと思ってる額はどのくらい?」
僕は苦笑いした。「ドニー、知っての通り、僕はただの平凡なコンピュータ・オタクだ。僕は4万ドルくらいは貯めてある。あのばあさん、どのくらい必要だと思う?」
僕たち家族の中では、ディ・ディとドニーはビジネス関係の専門家だ。僕はビジネスに関することはまったく何も知らない。他方、この二人は経営関係で博士号を取得する候補者とすら言える。僕は、家族でのビジネスに関して最終決断をすべきなのは誰かについて何ら幻想を抱いてはいない。