僕が女物の服を着るのが好きだと認めるのは、この時が初めてになるだろう。そう思ったので、僕は慎重に返事した。
「僕は君がくれるランジェリを着るのは好きだよ。着心地がいいし。でも、君が僕に着てほしいと思っているから、僕は着るのが好きなんだよ」
アンジーは僕に顔を近づけ、二秒ほどキスをした。そして話しを続けた。
「いろんなことを言ってても、あなたがランジェリを好きなのは分かってるわ。でも、私たちの、この関係を続けるとしたら、私、どうしてもあなたにはボーイフレンドであってほしいのと同じくらいに、ガールフレンドでもあってほしいの。…つまり、何というか、私がガールフレンドが欲しいと感じてるときには、ありとあらゆる点で女の子であってほしいということ。そういう時は、あなたには爪の手入れをしてくれなければダメ。手も足もね。顔も、私が化粧するのと同じように化粧をしてもらうわ。振る舞いや声も女のようになること、あなたが本当の女じゃないと誰にもわからなくなるように…」
「…私がボーイフレンドを求めているときには、あなたには、そのまんま男のように行動して。レストランに行って時の支払いとか、他の買い物の時とかで私が払うのが気になるなら、支払いのお金をあなたにあげるから、それで払ってくれればいいわ。でも、誰が支払いするかを問題にするのは、もうやめて…」
「…もちろん、私が命じたことは何でもすること。少なくとも、私がトライしてみてと言ったことは、何でもトライしてほしいわ。つまり、もう、自分はゲイじゃないからなんて言わないでほしいということ。あなたがゲイじゃないのはちゃんと分かっているから。あなたがゲイの男しか楽しまないと思っているようなことでも、やってみるととても気持ちのいいことかもしれないのよ。それで…、ここまで言ったこと、同意できることかしら?」
僕は、アンジーがこう言った時点で、彼女のもとを立ち去るべきだったのだろう。少なくとも、全然同意できないと言うべきだった。だが、僕は、よっぽどのぼせ上っていたのだろうか、「同意できると思う」と答えたのだった。
アンジーは、あの温かい素敵な笑みを浮かべた。「あなたならとっても楽しめるはずよ。私はものすごく確信しているわ…。さあ、それじゃあ、あなたの着替えを始めましょう。その後、お化粧や爪の手入れの仕方を教えてあげるわ」
アンジーは僕の手をとり、彼女のドレッサーの一つに案内した。
「このドレッサーはあなた専用にしてあるの。この中にいろんな種類のランジェリーをしまってあるわ。自由に着ていいわ。これからは、男物の服を着ているときでも、必ず中にはランジェリーを着ること」
彼女は引き出しを開け、買いそろえていたものを僕に見せた。多量のパンティがあった。ゆうに30着は超えている。ガーターベルトとストッキングに並んでキャミソールやテディ(
参考)がそろっている。それに、コルセット、ブラジャー、ビスチェ(
参考)さえもあった。ブラやビスチェがどうしてあるのか分からなかった。僕には胸がないのだから。ドレッサの中のものは、すべてサテンのレースかシルク、あるいはその両方の生地のものだった。
引き出しの中を一通り僕に見せると、今度はウォークイン・クロゼットに僕を連れていった。そしてスカートや、そのスカートとマッチしたトップスを見せた。ジャケットやコートもあった。それに、床にはハイヒールが少なくとも10足は並んでいた。
「あなたの足のサイズが正確に分かったら、ハイヒールの数はどんどん増えるわよ」
いろいろ見せられたが、男物の衣装は1点もなかった。アンジーは、その疑問に対する答えを用意していたのだろう。
「男物の服はそのうち用意するわ。まずはあなたには私のガールフレンドになってほしかったの。ボーイフレンドになる時よりガールフレンドになる時の方がずっと多くなるでしょうね」
アンジーは赤いシルクのドレスとヒール高5センチの靴を手にした。
「さあ、ジャッキー、ディナーのための着替えをしましょう。あ、そうだった。あなたの女の子の時の名前はジャクリーヌにするわね。縮めてジャッキーと。それが覚えやすいと思うし。そうじゃない?」
もちろん僕は同意した。この状況で、どうしたら「ノー」と返事できただろうか?