そして、彼女はいたずらっぽく頬笑みながら言った。「あのね、ちょっと考えていたの。あなたは私をこんなふうに着飾らせて、楽しんだわけでしょう? 今度は、私があなたをちょっと着飾って楽しみたいと思うの。それがフェアというものじゃない?」
「ちょっと着飾るって、どういうこと?」
ダイアナは僕の裸の胸に指を当て、その爪で優しく線を描いた。
「そのパンティはちゃんと他のと完全なセットになっているのに、それだけ履くのは残念じゃないかしらと思っていたところなの…。私があなたと一緒にできたらいいなと心から思っていることなんだけど…」
「完全にセットって?…つまり…」 と僕はゴクリと唾を呑んだ。
ダイアナは頭を縦に振った。そして、バッグの中に手を入れ、中からパンティにマッチしたライラック色のレース・ブラを取り出し、一本指で僕の目の前に下げて見せた。
「でも、何か重要なものが僕にはかけてるんじゃないかなあ?…もっと言えば、重要なものは二つだけど…」と僕は困惑して言った。
「ねえ、いいでしょう? 甘えさせてよ。お願い?」
彼女はそう言って、僕の返事を待たずに僕を後ろ向きにさせ、胸の前にブラをあてがい、背中のホックを留め、両肩にストラップをつけてしまった。そしてまた僕を前向きにさせた。僕は顔を下げて見下ろしたが、そこには平らな胸と、大きな何も入っていないブラジャーのカップが二つあった。
「何かコミュニケーションで欠落してるところがあると思うんだが」
と僕が無感情に言うと彼女は明るい声で答えた。「その欠落部分なら、私がなんとかできるわ」
彼女はショルダーバッグの中を漁り、中から本物に似せたシリコン製の乳房を取り出した。
「君は、まさかのためにいつもそれを持ち歩いているの?」 と僕は皮肉まじりに訊いた。
彼女はちょっと肩をすくめた。
「さあどうかしら?」とにやりと笑い、「これ、私が今のおっぱいをつけるまで使っていたものなのよ。今は…」
「ダイアナ。僕にはできないと思う」と、僕はうんざりしながら彼女の言葉を遮った。「何というか、ランジェリーはいいけど、これは…」
ダイアナは再び僕に優しくキスをした。そして、甘い声で訴えた。
「私のためだと思って、してみて。お願い。スーツを着れば、外からは見えないから。それに、あなたが今夜ずっと、私のために、私だけのために着飾ってくれるとしたら、それを思っただけで、私、すごく興奮してくるのよ」
分かったよ。流れに任せよう…
「…そう? まあいいか、…君が本当にそれを望むならだけど…」と用心しながら僕は返事した。
ダイアナは僕をギュッと抱きしめ、それから、僕のブラジャーのカップに大きすぎると思えるシリコンを差し入れた。それは、予想以上に胸板に心地よくフィットし、大きなカップを完璧に満たした。
「うーん、ありがとう! あなたって、私が出会った中でいちばんセクシーな人だわ。さあ今度はガーターベルトを着けてみましょう」
あっという間に、他のランジェリーとマッチしたガーターベルトが僕の腰のまわりに装着されていた。ガーターベルトからはストッキングを吊るす留め具がいくつも垂れ下がり、僕の太ももにあたっていた。それを感じながら彼女をぼんやり見ていた僕だったが、その時の僕の顔には明らかに困惑した表情が浮かんでいたのだろう。僕の顔を見た彼女は、口元にいたずらそうな笑みを浮かべた。何をしようとしているのか、言わずもがなの笑みだった。
「うーん、本当に素敵よ! あなたのこの長くて素敵な脚に早くストッキングを履かせなくちゃね」
女装云々にかかわりなく、たいていの男なら、この時点で出口に一目散していたことだろうと思う。だから、たぶん、僕は「たいていの男」には当てはまらなかったのだろう。この経験は、僕が出会った中で最も魅惑的な女性と行ったエンドレスのエロティックな経験のうち、最も新しい経験の一つにすぎなかった。