ハイヒールを履いている間、アンジーは説明していた。
「あなたがヒールに慣れるまでは、5センチくらいのヒールから始めることにするわね。それに卒業したら、7センチ半、そして10センチのヒールに変えていくの。今夜と明日は、ずっとハイヒールを履いててほしいわ。それに来週は、自宅にいるときにはずっとヒールを履いていること。来週の週末には、生まれてからずっとハイヒールを履いてきたように、堂々と歩くあなたの姿を見たいわ」
そのハイヒールは、最初の数歩の感じでは、それほど難しくはなかった。ヒール底が幅広なので十分に身体を支えられたし、感覚としては、そんなに高くはない感じだったので、かなり楽に歩きまわれた。ただ、僕は大股歩きになっていたようで、アンジーは素早く僕の歩き方を訂正した。女の子というものはトラックの運転手みたいには歩かないものよ、と。
その後、二人で階下に降り、ディナーを食べ始めた。ラザニアはオーブンから出して一時間近くになっていたが、まだかなり熱かった。アンジーに言わせると、ラザニアは、僕に女の子の食べ方を教えるのに最適の料理とのこと。何度も、一口食べる時にはできるだけ小さい量で口に運ぶように注意された。それに、いつもナプキンを手に持っているようにとも。
男と女で食べ方にこんなにも違いがあるとは僕は全然気づかなった。グラスでワインを飲む時すら、グラスの持ち方から、啜り方に至るまで違っているのだった。
食卓のテーブルはガラス・テーブルだったので、アンジーには僕の脚の様子がいつも見えていた。これも何度も、脚を揃えているようにと注意された。実際、脚のことについては、それまで気にしたことがなかったので、ずっと脚を揃えたままにしておくのはかなり大変だった。
ディナーの後、僕はアンジーに見られながら、食器洗いをした。アンジーは女の子が洗い物をするように僕が洗うのを確認したかったのだと思うけれど、正直、僕には違いなどないと思っていた。だが、それは間違いだった。フライパンをしまおうと腰をかがめたとき、違いが露見したのだった。女の子の場合は、腰のところで身体を折るのではなく、両膝を曲げ、しゃがみ込む格好にならなければいけなかったのである。
食器洗いを終えると、アンジーは僕をまた二階に連れて行き、今度はヘアーのセッティングに取りかかった。彼女は、この次は僕一人で繰り返すことができるようにと、どんな作業をしているか、逐一、僕に説明してくれた。ヘアーが終わると、彼女は僕の前に周り、僕の膝にまたがって、僕の顔の化粧に取りかかった。化粧については、アンジーは、僕に彼女がしてることが見えないようにして行った。
アンジーは、まずは毛抜きを取って、僕の眉毛を抜き始めた。「あなたはブロンドだから、眉毛を抜いて新しい形にしても誰にも気づかれないわ」と彼女は言っていた。
毛抜きにはかなり時間がかかった。それがようやく終わると、今度は眉毛鉛筆を持って、僕の眉に色を塗り始めた。
その後、まつ毛にマスカラを塗り、まぶたにアイシャドーも塗った。それからフェイス・クリームを出して、顔に塗り、頬やあごにかけて延ばした。頬紅を使って、僕に欠けていた頬骨のラインを強調し、赤い口紅を唇に塗った。