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裏切り 第2章 (11) 


車のところに着き、バッグ類をトランクへ入れ、逆にトランクからは僕のトレンチコートを出した。僕は、シルバーのE500の助手席ドアをダイアナに開けてあげ、彼女は感謝しながら乗り込み、そして、僕を見上げてにっこりと微笑んだ。実に意味深な笑みだった。

運転席に乗り込むと、彼女は僕の隣にすり寄ってきて、紫色に塗った爪で僕の首筋を優しく引っかいた。背筋に電流が走る感じがした。

車を動かし、夕方近くのゆったりした交通量の通りを走っていると、ダイアナは何か考え事をしているのか、額に小さくしわを寄せた。

「ねえ?」 と甘い声音で彼女は話しかけた。「予約の時間までどのくらいあるのかしら?」

「2時間くらいだけど、どうして?」

ダイアナの手による奉仕先が、僕の首筋から、太ももの内側へと移った。彼女の頭の中で、いまいろんな考え事が渦巻いているようだと僕にもわかる。

「あなたは、今日は私を甘えさせてくれたわ。ほとんど恥知らずと言っていいほど、すごく贅沢させてくれた…。だから、もうひとつだけでいいの、もうひとつだけ甘えさせてくれる?」

「君が求めるものならどんなものでも、僕には断ることなんて想像できないよ」

僕の返事を聞いて、ダイアナは僕の太ももをギュッと握り、はにかんで微笑んだ。

「いま言った言葉、後であなたに思い出してもらうことになるかも…」 彼女の声は少しだけ震えていた。「望みって、ただ……。何というか、この服装は何から何まで、すごく完璧なんだけど、たった一つ、小さなところだけ、そうでないところがあるのよ」

「どんなところ?」

「みみっちいことだとは知ってるんだけど…、でも、やっぱりこの服装には赤のコルセットにすべきなの。黒じゃなくって。分かってるわ、分かってる。どっちだろうが誰も見ないだろうっていうのは分かってるの。でも、あなたと私だけは知ってることになるでしょう? それに、あなたのおかげで、今日と言うとても完璧な一日に、私をこんなにも完璧にあなた望みの姿にしてくれたわけだから…」

「素敵だと思うよ。でも、土曜日で、もうこの時間だし、そういうの売ってるところが見つけられるかなあ」

「私、いいお店を知ってるの!」と彼女は嬉しそうな声を上げた。「彼、ノース・サイドで特注のコルセットを売ってるの。私のコルセットは全部、彼のところから買ってるわ。実のところ、私は、彼がショーをするときの、彼のお気に入りのモデルをしてるのよ。いま電話したら、彼、ものすごく喜んで私たちに会いたがると思うわ」

強烈なエロティシズムを求める僕としては、これはやり過ごすわけにはいかないことだった。僕から携帯電話を借りた彼女は、早速、記憶を頼りにダイヤルを押した。そして電話の向こうの人物と2分ほど陽気におしゃべりをし、そして電話を切った。彼女は口元に満足そうな笑みを浮かべて僕を見た。

「彼、私たちを待っててくれるって。私が言ったとおりでしょ。道順は私が教えるわ」

そこにはちょっと時間がかかった。場所は、ロジャーズ・パークの近くの3階建の茶色の建物だった。頬ひげに加えて山羊のようなあごひげも伸ばしたワイヤーフレームのメガネをかけた男が出てきて、ダイアナを温かく抱擁した。ダイアナは僕をそのポールという人に紹介し、そしてポールは僕たちを地下の作業室兼ショールームへと案内した。


[2011/07/04] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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