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ジャッキー 第8章 (3) 

多分、アンジーは冗談を言っていたのに違いないと分かり、僕はすぐに笑顔になって言った。

「どうしたら、それができるか分からないわ」

アンジーは、あの眩しい素敵な笑みを浮かべた。

「あら、どんなことだって可能よ。でも、セックスの話はもう十分。朝食を食べることにしましょう」

彼女の言い方に何か意味深な雰囲気があったので、僕は彼女がどんなふうにするのだろうと気になり始めた。

とはいえ、すぐに二人で朝食を作り始めたので、実際はそれについて考えてる時間はあまりなかった。食べている間も、自分の行動に注意を払わなければならなかった。つまり、女の子ならどのようにするか、あらゆる点で注意し続けなければならなかったのである。ようやく朝食を済ませたが、その間、一度もアンジーに間違いを指摘されなかったので、とても誇らしく感じた。彼女の嬉しそうな笑顔も、僕に満足していることを伝えてくれていた。

「どうやら、私の彼女はとても上手になってきているようね。お化粧もとても上手。たった一日しかお化粧をしてないことを考えたら、大変素晴らしいできだと言いたいわ。それにお作法も大変よくできました。そろそろ本格的なトレーニングに入っても良さそうね。ちょっとだけ露出させてあげようかなと思ってるの」

それを聞いて急に誇らしい気持がしぼんでしまった。

「露出って、どういうこと?」

恐る恐る訊いた。僕の声におののきの気持ちが入っているのを彼女は察知したと思う。

「たいていの女の友だち同士がするようなことをするの。一緒にショッピングに出かけたらいいと思うわ」と、アンジーは立ちあがり、食器洗いに自分の食器を持っていった。

「ちょっと待って。この恰好で私を外に連れ出そうとしてるの? 他の人に見られる場所に?」 唖然とした気持ちをなんとか乗り越えながら訊き返した。

「うふふ。もちろんよ。女友だちはそういうことを一緒にするものなの。お買い物に行ったり、映画を見たり、ダンスをしにクラブに行ったり。ジャッキー? あなたのことは大好きよ。でも、毎週、毎週、仕事がない週末をあなたと家の中でずっと過ごすのはイヤだわ。さあ、あなたの食器を食器洗いに入れて。その後でコートを着て、一緒に出かけましょう」

ノーと言おうと思った。本当にそう思ったが、どこか、この時点でそれを言うのは悪いことだと思った。アンジーが僕をどこまでこの方向で推し進められるか、その限界を切り開こうとしているのは確信していた。それに、ここで反対して、アンジーに、僕は彼女が探し求めている恋人ではないと判断されるのも嫌だった。もうすでにアンジーのことがとても好きになっていたし、恋に落ちていたと言ってもいい。自分自身、彼女との今の関係を悪化させたいとは考えていなかった。僕はあいまいな笑みを浮かべながら、言われたとおりに食器洗いに食器を入れた。

ふたりで二階に上がると、彼女は僕に皮のコートと持ち物を入れるハンドバッグを渡した。僕は、自分の財布からお金と免許証とクレジットカードを出し、女物の財布に入れ替え、その財布をハンドバッグに入れた。それにコンパクトと口紅もバッグに入れた。ふたりとも出かける準備が整い、一緒に下に降り、玄関を出て、彼女の車へと向かった。

本心では、アンジーが「今のはからかっただけ、私の言うことに従ってくれるか、確かめたかったのよ」と言ってくれるのをずっと待っていた。だが、車に乗りこんだ後、やっぱり、ぜんぜんジョークではなかったのだと知った。本気で僕を店に連れて行こうとしている。

アンジーが運転する車で街を進みながら、自分が次第にパニック状態になっていくのを感じた。トンネル視になったような感じで、自分の真正面にあるものしか見えない。アンジーはお店でどんなものを買おうかしゃべり続けていたが、僕は耳がガンガンなっていて、何も頭に入らなかった。

モールに着くまでどのくらいの時間だったか、分からない。ずいぶん長くかかったようにも思えるし、すぐに着いたようにも思える。実際、車が止まったことすら気づかなかった。ドアが開いて、アンジーが「さあジャッキー! 一日中、車にいることはできないわよ」と言うのを聞いて初めて気がついた。


[2011/07/28] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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