しばらく経ち、イサベラの呼吸が落ち着き始めたころ、レオンは優しく「イサベラ?」と呟き、呼びかけた。彼女はレオンの上に覆いかぶさったままだった。まるでレオンの身体に形を合わせるように、丸みを帯びた温かな身体を密着させて横たわってる。
「なんだ、その…、何か忘れていることがあるのではと思うんだが?」
イサベラは彼の上、少し身体をくねらせながら眠たげに何かつぶやいたが、それ以外は黙ったままだった。
レオンは横になったまま、胸板に乗っている彼女の頭のてっぺんを見下ろし、苦笑した。イサベラを起こさぬように注意しながら、拘束されたままの両手を動かし、ようやく片方の手首の結びを解いた。そしてもう一方も解く。
解かれた両手でイサベラの滑らかな背中の肌を撫で降ろし、やがてその両手は彼女の裸のままの尻頬へと降りた。
レオンは、心臓の鼓動が落ち着き始めるのを感じながら、今のようなイサベラの勝利の行為を、この先、二人とも楽しむことになるだろうと思っていた。イサベラは純粋無垢な性質であるにもかかわらず、鋭い性感が発達している生き物なのだろう。俺を興奮させようとすると、否応なく、自分自身も高めてしまうらしい。さっき放ったばかりの今ですら、俺の上に乗った時にイサベラの表情を思い出すと、再び興奮してくる。自分からした行為であるにもかかわらず、快感に突如襲われショックを受けた時の可愛らしい表情。
レオンは優しくイサベラの尻頬を揉んだ。だがイサベラはぴくりとも動かなかった。
お仕置きとしてここを叩くのは後にして、今は疲れ切ったらしいイサベラを寝かしたままにしてやろう…。そう思いながらレオンは唇を歪め、微笑んだ。
~*~
イサベラはレオンの居室のドアを静かに閉じ、冷たい石畳の廊下を軽い足取りで進んだ。自分から仕掛けた愛の交歓でレオンを極限まで高め、男性とは違うパワーを女性である自分が持っていることを知り、そして楽しんだ。そのことを思い、心の中が明るくなっているのに気づいた。
そんな物思いにふけっていたためか、イサベラは、突然、腕が伸びてきて腕をつかまれ、不意をつかれた。その腕に強引に引っ張られ、後ろ向きにさせられ、髪の毛が顔にかかる。そのまま背中を押され、石壁に強く押し付けられた。その圧力の強さに肺から呼気が押し出される。
何か冷たいものを喉元に押し当てられ、瞬間、心臓が止まるのを感じる。恐怖が背筋を走り、まばたきをした。ついさっきまで、いささかなりとも眠気があったにしても、それはすでに吹き飛んでいた。
「ようやく見つけたぞ」 聞き覚えのある声が耳元で囁いた。イサベラは膝から力が抜けていくのを感じた。
レオンに助けを求めようと口をあけると、すかさず手で口を塞がれた。その手の指が彼女の頬に食い込む。
「おとなしくするんだ。お前を傷つけたくはないからな。まだ今は」
つづく