「ライジング・サン&モーニング・カーム」 第1章 The Rising Sun & The Morning Calm Ch. 01 http://www.literotica.com/s/the-rising-sun-and-the-morning-calm-ch-01 by vinkb
釜山 1587年 李氏朝鮮王朝時代
一年のこの時期にしては珍しく、釜山の海岸沿いに嵐が猛威をふるった。雨期になるのは2カ月ほど先だったのだが、ほとんど突然、空が黒く染まり、天が海岸沿いの町に住む人々に、その怒りをぶちまけたのだ。
ジウンは、帰宅の道を急ぎながら、どうしてもっと早く漁を切り上げなかったのかと自分を恨んだ。今日、彼女はとりわけ大漁に恵まれ、最後のギリギリまで漁を続けようとしていたのである。いま、激しい雨に打たれ、頭に上着を被りながら、彼女は、その当然の報いに耐えているところだった。靴は濡れた砂に埋まり、どうしても歩みが遅くなる。
その時だった。彼女は、突然、砂の中の何かにつまずいた。そして、濡れた髪を顔から拭い払いつつ、つまずいたものに目を凝らした。あたりは暗く、ほとんど前が見えない。明かりと言えば、時折、空を引き裂く恐ろしい稲光だけ。しかし、一瞬の稲光の明かりの中、彼女は、かろうじて、砂に流木がいくつか転がっているのを見ることができた。そして、その隣に何か塊を見たのだった。それは人間であった。ジウンは、不運な漁師が岸に流されてきたのかと憐みを感じ、自分の漁の獲物を浜に置き、その人を家へと引きずり始めた。
5分もすると、彼女はかなり疲労し始めていた。この男、漁師にしても、ひどく重い。嵐で先を急がねばと急きたてられていなかったら、何度も立ち止り、休んでいたことだろう。永遠に続くかと思われたが、それでもやっとのこと、彼女は男を家に連れ入れることができた。慎ましい家である。
木製の引き戸を締め、ジウンは、ほっと安堵のため息をついた。そして急いでろうそくのもとに行き、灯りをつけた。
ようやく明かりに目が慣れ、その人物を見たジウンは、悲鳴を出しそうになるのをこらえ、危うく、手元のろうそくを落としそうになってしまった。彼女の目の前、床の上には、男が横たわっていたのである。いや、男であるのは分かっていたが、いまだ意識を取り戻してないその男は、重々しい見知らぬ鎧を身に着けていたのである。このような鎧は、朝鮮の兵士が着ているものとは全く異なっていた。ジウンは好奇心を抑えることができず、もっとよく見ようと男に近づいた。
ろうそくを男の顔の近付けた。思ったほど年配ではない。年上とみても20代後半か。びしょ濡れのままなので服を脱がすべきだと思い、ジウンは灯りを横に置き、どうやればこの鎧を脱がせられるのかと迷った。
ぎこちない手つきで漆塗りと思われる様々な鎧の板を外していき、ようやく最後の武具を男の胴体から外した。その瞬間、男の肌に触れ、異様に熱くなっているのを感じた。この人は熱を出してる。
普段は慎ましい娘であるジウンであったが、それもすっかり忘れ、男の衣類をすべて剥ぎ取り、素裸にした。そして素早く身体を拭き、自分の寝台へと引きずり乗せた。
ほんのわずかしか掛け布は持っていなかったが、そのありったけの布団を男にかけ、身体を包んだ。その後、小さな箪笥に手を伸ばし、中から乾燥した植物を取りだした。それを粉に挽いた後、その粉を布に包み、その布包みをお湯にひたした。間もなく、ムッとする匂いが部屋を満たした。
ジウンはすぐに見知らぬ男の横に戻り、男の頭を抱え上げ膝の上に乗せた。そして、男を起こそうと、頬を叩いた。ようやく男が薄眼を開けたのを見たジウンは、先ほどのお湯を入れた椀を男の唇にあてた。
男はその湯の匂いに気づき、拒もうとした。それを感じたジウンは、この男に言葉が分かるか不明であったが、きつい調子で、
「文句はなしよ!」と言った。「飲むの!」
男は、彼女が言わんとしてることを理解したのか、その汁を飲み干し、またぐったりと横になった。これだけのことでも疲れ果ててしまったようだ。
ジウンは、二人とも何か食べなくてはいけないと思い、漁の獲物を置き去りにした浜へと走り、獲物を回収し急いで家に戻った。身体にかかった雨水を振い落しながら家に入り、早速、魚を焼き、アワのおかゆを作り始めた。そして乾いた服に着替え、男の隣に座った。
さっきとは違って、男の頬を叩いて起こそうとしたが、男は動かなかった。熱は引き始めていたが、代わりに冷たい汗が男の全身に噴き出していた。身体を震わせているのが見える。
ジウンは、少しおかゆを食べた後、男の鎧を珍しげに眺め、立ち上がり、刀を手にとり、調べた。刀を鞘から出した彼女は、その細い剣を作った見事な職人技に驚いた。美しい武器だった。
脱がせた男の衣類の横に再び座りなおしたジウンは、自分の両手を枕にし、薄暗い灯りの中、男の顔を調べるように見つめ、そしていつしか眠りに落ちた。