「それでは、みんな、遠慮しないで、彼女をドレスアップするのを手伝って! 彼女にコツを教えなくちゃいけないの!」
「ちょっと、待って!」 と僕は叫んだ。
ダイアナが僕の方を振り向いた。にっこり微笑んでる。「待ってって、何を?」
「僕は、まだ何も言っていないんだけど」
ダイアナは、まさに誘惑的な妖女のように、僕の首に両腕を絡めて抱きつき、鼻先で僕の鼻先を擦った。
「でも、あなたはもう言ったはずよ。やめたくないって。もう気が変わっちゃったの? だとしたら、とてもがっかり」
「いや…、ただ僕は…」
口を開いて、すぐに足をつっこんで塞ぐ(
参考)、というか、もの言えばくちびる寒し秋の空とでも言うのか。ダイアナが本気だったとは思わなかったと言っても、ちょっと遅すぎだろう。ともあれ、この種類のことについては、彼女は冗談を言わないものだ。
「で、でも…、誰かにバレたら、死ぬほど恥ずかしいよ」 と僕は悲鳴を上げた。
だけど、ダイアナはただウンウンと頭を振るだけ。彼女の笑顔は否定できないし、僕の唇への優しいキスも拒めない。
「あなたって、おバカね! あなたが何と言おうと、そんなこと、ここでは問題にならないわ。あなたが心の奥で期待してるなら、それは、すなわち私の命令。私たち以外の誰にもできないことだとはっきりさせなくちゃ。でしょう? 私たちを置いて、他に誰が、あなたを可愛く着飾らせることができると言うの?」
「彼女にどんなのを着せるつもり? ダイアナ?」
ダイアナはにんまりとしながら、ショルダーバッグに手を入れた。
「ちょうどここに持ってきてあるの。この可愛いの!」 とダイアナは喜びの声を上げ、バッグの中から半透明のブラウス、スエードのスーツ、それにミュールを取りだした。
「彼女、今日の午後、これを着ていた私のこと気に入っていたの。でも、今度は、彼女に着せて、どんな感じか見てみようと思って」
あっという間に、僕はダイアナが着ていた服に変えられていた。僕がその服を着ても、彼女ほど良く見えないだろうと思っていたが、驚いたことに、実際、よく似合っていたのだった。嬉しい驚きだった。そんなはずはないと想像していたのだけれども、化粧も髪のセットもしていないことを考慮外に置くと、僕はぜんぜん男性には見えなかったのだった。それに化粧や髪のセットがないことによる欠点も、そう長くは続かなかった。早速、そちらも対処されたのである。
みんなに誘導されて、リクライニング式の、美容院にあるような椅子へと座らされた。ほとんど仰向けに横たわるようにさせられた。その僕の身体に美容院で使う大きなエプロンが掛けられ、首から下の部分をすべて覆われた。これから何があるか分からないけど、それによって服が汚れるのを防ぐためだと思う。
その後、彼女たちは本格的に僕に作業を始めた。「お化粧アーティスト」のメンバーは次から次へと入れ替わって、それぞれの専門の仕事をしていった。まずは眉毛。4本から5本の毛抜きが一斉に出てきて、同時に僕の眉毛に攻撃をした。情け容赦なく、許可を請うでもなく、眉毛を一本、一本、引き抜かれていった。ようやく、眉毛係が満足すると、今度は僕の顔の肌色を入念に調べ、粗さがしを始めた。
女の子のひとりが僕に言った。
「あなた驚きよ。あなたの顔、赤ちゃんのお尻みたいに柔らかくて、つるつるだわ。虫めがねがないと、毛穴ひとつ見つけられないわ。ニキビも染みもないし。それに、髭の跡も、ちっとも見つけられないもの!」
僕は打ち明けた。
「髭を剃るのが嫌いなんです。体毛も同じ。体毛や髭に汗や細菌がつくみたいで、長距離を走った後みたいな嫌なにおいがするから。それに、感触も気持ち悪くて…。ゾワゾワするというか…。だから、おカネを稼ぐようになってすぐに、レーザーで処理してしまったんです」
「それでいながら、女装は初めてなんでしょう? 何てもったいない!」 とチャンタルが驚いて言った。
「もったいない」のところはふざけ混じりの声だった。彼女たちは僕にうち解け始めていたし、僕もうち解け始めていた。
この状態のすべてが、現実離れしている感じだった。1週間もしない前には、僕はこの世界を通りすがりに垣間見て知ってるだけだったのに、今や、すっかりこの世界に引き込まれている。
僕自身は、彼女たちに何も隠していなかった。もし、僕が男性としての自我に固執していたら、僕のルックスやほっそりとした体つき、愛嬌のある表情などは、彼女たちの領域を侵犯するものとして拒否されていたことだろう。ダイアナは彼女たちにかなり高評価を得ているようだ。そのダイアナと僕が関係があるということが、彼女たちが僕を受け入れてくれた理由のすべてだと思う。