みんな、がっかりした顔をした。このまま撮影を続けたかったみたい。わたしは手を降ろしてスカートの裾を掴み、元に戻した。スカートの位置からすると、やっぱり、ショーツが丸見えになっていたみたい。
「で、トイレはどこ?」
「ママ、この近くにトイレなんかないよ。鉄道の車両の間に隠れてするしかないんじゃないかなあ」
そう言われ、息子と他の子たちの顔を見た。
「オーケー、じゃあ、すぐに戻ってくるから」 そう言って、その場を離れた。
歩き去りながら、わたしの後ろに立っていたフランクの方をちょっと見た。まだわたしのことをじろじろ見続けている。まるでわたしを貫くような、身体全体を這いまわるような視線…。
何かあの視線には変な感じがある。まるで、わたしのカラダしか見てないような視線。わたしがどう思うか、わたしが何と言うか、そんなの関係ないと思ってるような視線。
その視線がちょっと怖かったので、少し歩きかたがぎこちない感じになっていた。脚がこわばって、そのため腰を振って歩くような感じになっていた。
車両の角のところを過ぎて、あの子たちから見えなくなったところで、わたしはその車両にもたれかかって、はあーっと一息ついた。深呼吸して自分を落ち着かせる。
「おい、トミー。お前も分かってるだろ? 誰かお前の母親について行って、ちゃんとここに戻ってくるようにさせなきゃいけねえんじゃねえのか? それに誰かが見張ってやらないと、お前の母親も安心できねえだろ」
フランクが息子に言っている。あんな目つきでわたしを見ていたわけで、わたしはとたんに緊張した。
息子が答えた。
「ああ、そうかもしれないな。ちょっとメモリーカードを交換するから、待ってくれ。その後で行くよ」
「いや、お前は自分のカメラを見てればいいよ。俺がお前の母親の面倒を見るから」
なんてこと! あの子はダメ…。フランクは全然信用ならないわ。
素早く歩き出して、もう一つ先の車両の陰に向かった。それでも安心できなくて、どんどん歩き続けて、離れた。
ようやく、ひと目につかなそうな場所を見つけた。周りが車両で囲まれていて、行き止まりになっている。そこの奥に行って、聞き耳を立てた。
でも、何秒かしたら、足音が聞こえた。恐怖に喉から心臓が飛び出してしまいそう! どうしてこんなに早くわたしの居場所が分かったの?
足音の方を振り返ったら、フランクと対面することになる。それはイヤだった。なので、近づいてると分かっていても、彼の方には背中を見せてじっとしていた。
足音がとまった。わたしの後ろの方にいるのだと分かる。多分、あそこの車両の陰からわたしを見てるはず。あの動物的な視線でわたしのお尻をみているはず。わたしは息をひそめていた……。ああ、なんとかしなくちゃ!
頭を下げて、ゆっくりとスカートを捲り上げた。ハッと息を飲むのが聞こえた。かなり大きく聞こえた。かなり近くに来ているとすれば、このくらいに聞こえる。とすると…。
でもわたしは反応しなかった。反応したら、フランクがそこにいるのをわたしが知ってると認めてしまうことになる。そうなったら、どうしてもあの人と対面しなければいけなくなる。どう考えても、それは、わたしにはできないわ。
しばらく、フランクが諦めて戻って行くのをじっと待っていた。でも、聞こえてきたのはカメラのシャッターを切る音!
…ああ、なんてこと? 帰って行くのじゃなくって、わたしの写真を撮っているなんて…。でもそのことがゆっくりとわたしの頭に染み入ってきて、わたしの身体が自動的に反応していた! あそこが濡れてきてる!
ちゃんとふり返って、フランクに立ち去ってと言うべきだった。だけど、わたしはそうしなかった。どういうわけか、震えたまま、突っ立っていただけ。いいこと? ケイト、スカートを元に下げるのよ。そう自分に言い聞かせた。
だけど、実際にしたのは、ショーツの腰ゴムのところを握って、じわじわと降ろしていくことだった。おしっこをするときのように。どうしてそんなことをしているの? 自分でもわからなかったけど、フランクの何かが…。多分、あの視線でわたしを見ているということ…、わたしの写真を撮っているということが、そうさせたのかも。