2ntブログ



ライジング・サン&モーニング・カーム 第2章 (1) 

「ライジング・サン&モーニング・カーム」 第2章 The Rising Sun & The Morning Calm Ch. 02 出所 by vinkb


*****

これまでのあらすじ


1587年、李氏朝鮮時代の釜山。地元の娘ジウンは浜に男が倒れているのを見つけ、家に連れ帰り介抱した。男はノボルと言い、日本から来た偵察隊のひとりだった。言葉が通じないものの、二人は文字を通じてコミュニケーションを行い、心を通わす。そして寝床を共にした二人は結ばれたのだった。その翌朝、小屋の外で日本人の声がし、ノボルは恐怖の表情に変わり外へ飛び出した。


*****




ノボルは、声の出どころを求めて海岸を必死に見回した。そして、弟の三郎が兵士たちを引きつれて海岸を歩いてくるのを見つけた。ノボルは、三郎が生きていたことを知ってことのほか喜んだものの、ジウンのことも不安であった。ノボルは、これまでの経験から、自分たちの兵士が朝鮮の人々に対して獣のような振る舞いになりがちなことを知っており、兵士たちにジウンの存在が知られないよう願っていた。このような人里離れた場所で、兵士たちが彼女に何をするかを思うだけでも、背筋が寒くなる。

「兄上! ご無事でしたか!」 三郎が嬉しそうに叫び、駆け寄ってきた。

「お前も無事でよかった」 ノボルは刀に手をかけ、答えた。できるだけ平穏で、何ごともないように振舞った。

三郎は頷いて、地面に腰を降ろし、軽く首を回した。「ひどい嵐だったなあ。あの嵐の中、皆が無事だったのは奇跡と言えなくもない」

「まことに…」 とノボルは答えた。だが、ぎこちない返事の声しか出ていないのに気づき、内心、自分に情けなくなった。

三郎はノボルがどこか気もそぞろにしているのに気づき、いぶかしげに兄の様子を見ていたが、とりあえず言葉を続けた。「まあ、偵察は充分したと言える。必要な情報はすべて得たし、殿も、疑いすらせぬ間抜けな朝鮮のウジ虫どもは侵略の邪魔にはならぬと知って、お喜びになるだろう」 そして再び立ち上がり、ニヤリと笑った。「…どうやら、国に戻れそうだ」

ノボルは視界の隅で、兵士のひとりがジウンのいる小屋に近づくのを見かけた。「おい!」

三郎はその小屋に目をやった。「どうやら、兄上は、嵐を避ける小屋を見つけていたようだな。運が良いことよ。あそこで何か食い物を見つけたのか? 俺も腹がすいた」

「中から食べ物のにおいがします」と兵士のひとりが声を上げた。

しまった! 先ほどの朝飯か! ノボルは、兵士の気を逸らす言い訳を探そうとしたが、その前にすでに兵士は扉を開けていた。

「おい、おい、おい! これはいったい何だ?」 と別の男が素っ頓狂な声を上げた。

男たちが中に入り、ジウンを引きずりだした。ジウンは叫び声を上げていた。ノボルは刀を握る手に力を入れた。

「おい、こいつは悪くねえな!」 と兵士が嬉しそうに言った。

三郎は小屋の中を覗きこみ、寝台に血痕があるのを見つけた。そして苦笑いしながら肩越しにノボルを振り返った。「どうやら、兄上は昨夜、ちょっとお楽しみをしたわけか。どうしてだ…? 獲物を分け合う気はなかったのかな?」 

三郎はジウンに近づき、髪の毛を鷲づかみにしてひねり上げた。兵士どもに捕まえられたまま、ジウンは身体を捩った。

「三郎! 彼女を離すんだ」

三郎は兄が真剣な声の調子で言うのを聞き、ノボルをふり返った。そして何か察知したような訳知り顔の表情になった。

「ほほう、兄上はこいつが気に入ったと。そんな顔をしてるようだな? この女の上に乗って、そう思ったと」

兵士どもはジウンの身体に手を伸ばし、触り始めていた。そのジウンの悲痛な叫びがノボルの耳を突き刺した。

腹の中、怒りがこみ上げてくるのを何とか封じ込めながら、ノボルはゆっくり答えた。「女をこのように扱うことは不名誉なことだ。このような振舞いは侍にふさわしいことではないぞ、三郎!」

「確かに、あの女が人間なら不名誉なことかもしれぬが、この朝鮮人どもは犬以下の存在だろうて」

三郎は、そう言い、何を取るに足らぬことをとでも言いたげに、払いのけるように手を振り、そして男たちに向かって付け加えた。「その女、自由にしていいぞ」

その言葉と同時に、男たちが一斉にジウンの衣類を引き裂き始めた。ノボルはジウンが叫ぶ言葉が分からなかったが、ジウンの気持ちは痛いほど理解できた。もはや怒りを封じ込め続けることができなくなったノボルは、三郎の前に躍り出て、刀を引き抜いた。

朝の光がきらりと刀に反射したかと思った次の瞬間、ジウンを捉えていた男の腕を切り落とし、もう一人の男の脚を切っていた。他の兵士たちが、叫びつつ、一斉にノボルに襲いかかった。

ノボルは見事な戦いぶりを示したものの、一瞬気を許したすきに、弟に刀で後頭部を打たれ、どさりと地面に倒れた。砂浜に顔面から倒れ、朦朧とした意識の中、両腕を背中にねじあげられ、刀を取られ、手の届かぬ所に置かれるのを感じた。

三郎は、余計なことをしてと不満そうに舌打ちしながら、ノボルの前に立ち、さも残念そうな顔で見た。

「兄上。こともあろうにあんな動物を助けるために、自分の国の者を手にかけるとは。もっとまともな人と思っていたのに。忠誠心や、お国の誇りはどこに行ってしまったのですか? 殿もさぞかしお怒りになられますぞ」

ノボルは拘束から逃れようともがきつつも、三郎を睨みつけた。

「お前の兄としてお前に命じているのだ。あの女を放すんだ!」

「御免、兄さん」 と三郎は嫌々そうに言った。「だが、殿への義務は、身内の者としての兄上への義務に上回るのだよ」 そして、肩越しにジウン立ちがいる方を見ながら、付け加えた。「それに、兄上が俺の部下にあんなことをした以上、俺の兵士たちもそれなりの償いを求めても当然だろう。そうだろう、皆の者!」

「やめろ!」 

ノボルは、身動きできぬまま、兵士たちがジウンに襲いかかるのを見た。ジウンが叫ぶたびに、腹の奥が捩れるのを感じた。そして、やがて男たちに犯されるジウンを見ることすらできなくなった。

三郎の声が耳に響いた。

「あのなあ。兄上が俺の兄上で良かったはずだ。さもなければ、俺はこの場で兄上を殺さなければならなかっただろう。ともあれ、男たちが存分に楽しんだ後は、我々は都に戻り、殿に兄上の処分をお任せするつもりだがな」


[2012/01/23] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

コメントの投稿















管理者にだけ表示を許可する