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裏切り 第4章 (9) 

僕は、大丈夫だよと安心させるような感じでダイアナの手を握った。実際は、僕はそんな気持ちではなかったけれど。笑って見せたけど、ちょっと作り笑いになっていた。

「君のコートは僕がちゃんと見守っておくから」

彼女はいろんな感情が混じった表情をしていて、それを読み取るのは難しかったけど、言葉には出てなかったものの、唇の形から「ありがとう」というメッセージを読み取るのは難しくなかった。

その時、妻のスーザンに浮気されたことを受け入れるのはとても難しかったことを思い出していた。浮気の事実を知り、僕は自分の荷物をまとめ、玄関を出て、8年間ほとんど幸せな思い出しかなかった家を飛び出したのだが、それは不可能に近いほど苦しいことだったのである。

いまの僕の感情は、その時の僕の感情とはまるで異なっている。いま、僕は、僕の「バービー」がひとりでドアを出て行き、その二分くらい後に彼女の「ケン」が上品に後を追ってでて行くのを見ている。

この時も、ダイアナは僕に隠れて浮気しようとしているのではないということを改めて思い出さなければならなかった。ダイアナは自分がこういう女だと僕に正直にそして率直に伝えていたし、僕もその点では彼女のことを認めていたのであるから。もっと言えば、僕たちはまだ結婚すらしていないのだから。

「まだ」って? あなた、何を考えているの、リサ?

僕は、そんな考えに没頭しながら、ただ座っていた。無意識にダイアナの豪華な毛皮コートを撫でていた。このコートがこんなに極上の手触りだったとは気づいていなかった。僕は、ダイアナが座っていた隣のスツールに席を替え、その柔らかく、ふわふわした毛皮に身を包んだ。それにくるまると、極上の快感で心が贅沢になる感じがした。

僕は、これまで長い間、どうしてこの贅沢な快感を味わおうとしてこなかったのだろう?その答えに気づいて、思わず微笑んでしまった。女になろうとしなかったから、というのが答えだ。単にそういう見方をしようという気がなかったからにすぎないのだ。

だとすると、いま僕がこんなふうに感じているということは……。ひょっとすると、これまでの見方を変えるのはあまり難しいことではないのかもしれない。何か適切な…何か適切な刺激があれば、それで簡単に変えられるのかもしれない…。

「ハーイ、可愛い子ちゃん! 隣に座ってもいい?」

顔を上げた。今回は、作り笑いでなく、純粋な温かな笑顔になった。

「チャンタル! どうぞ、是非!」

リッチーの目を見た。彼は僕の心を読んで、素早く3個目のフルートグラス(参考)を出した。僕はそのグラスに残っていたテタンジェを全部注ぎ、乾杯をしようとグラスを掲げた。

「私の…私の新しい人生に…」 と小さな声で言った。

「乾杯!」と彼女も合わせ、優しく僕のグラスにグラスを当て、そして一口啜った。

「まあ! あなた趣味が良いのね…」 チャンタルは驚いた。

それから僕の身体を包んでいる、罪深いほど高価で贅沢な毛皮をちらりと見て、「…しかも、いろんな点で」と言った。

僕はゆっくり頷いて、落ち着いた声で「ありがとう」と言った。

「ところでダイアナは?」 と辺りを見回しながらチャンタルは尋ねた。

「デート!」

そっけない声、それに僕の身体が強張った様子から察したのだろう、チャンタルは即座に事情を理解したようだ。小さな声で言った。

「あら、そう…。どういうことになるか私には分かるけど…。それについて、いま、あなたに話してもいいかしら? あなたも話しをしたい?」

僕はゆっくり頭を縦に振った。


[2012/02/08] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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