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ライジング・サン&モーニング・カーム 第3章 (1) 

「ライジング・サン&モーニング・カーム」 第3章 The Rising Sun & The Morning Calm Ch. 03 出所 by vinkb


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これまでのあらすじ


1587年、李氏朝鮮時代の釜山。地元の娘ジウンは浜に倒れていた男を見つけ、家に連れ帰り介抱した。男はノボルと言い、日本から来た偵察だった。ふたりは言葉が通じないものの文字を通じ心を通わす。そして二人は結ばれた。翌朝、ノボルの弟三郎が率いる兵隊が現れジウンを強姦する。それを受けジウンは自害した。ノボルは怒りに兵を殺すが拘束され、秀吉の元に連れられた。秀吉はノボルの処罰として不死の刑を科す。山奥に連れられたノボルはそこで狐使いの美女と交わり、その結果、自分が人間ではなくなるのを見つつ意識を失った。


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目覚まし時計のけたたましい音に、アンジェラはまばたきしながら目を覚ました。うるさそうに目ざまし時計を叩き、再びベッドの中にもぐりこみ、心地よさを求めて身体を丸くした。―どうしていつも、ぬくぬくして気持ちいい温かさの時になると起きなくちゃいけないのかしら― 

溜息をつきつつ、しぶしぶシーツをのけて、眠たそうにバスルームへ歩いて行く。蛇口をひねり、冷たい水で顔を洗った。そうすれば目が覚めるだろうと。

「ミャーオ?」

その声の持ち主が洗面台の端に飛び乗り、彼女のあごの下に頭を擦りつけてくるのをアンジェラは微笑んで受けとめた。

「どうしたの? おはよう、イン」 飼ってる子猫が嬉しそうに喉を鳴らすのを見て、彼女も可愛い声で話しかけた。

あたかもインが可愛がられているのに気づいたかのように、インの妹と弟もバスルームに入ってきた。アンジェラは、この子たちを見つけた時の状況を思い出しては、いまの元気な3匹を見るととても嬉しくなる。

職場から帰宅するとき、箱に入ったこの3匹を見つけたのだった。少しでもぬくもりを得ようと、3匹かたまって丸くなっていた。アンジェラは、インの明るく青い瞳と白い毛並みに抗しきれず、箱ごと拾い上げ、家に持ち帰ったのである。そして、これはアンジェラが行った中でも最も良い行為となった。

2週間もしないうちに、子猫たちはすくすくと成長し、それぞれの個性もとても愛らしく花開いたのだった。インは3匹の中で一番上のようで、同時に最も愛情豊かだった。その妹のヤンは、インの次の大きさの銀色の毛並みの猫。最後はスノッティで、唯一のオス猫。見つけた時、鼻から血を流してるのでそう名付けたのだが、これは全身灰色の猫だった。

それぞれ異なった眼の色を持つこの3匹の聡明な猫は、期待した目でアンジェラを見上げ、アンジェラはそれを見て、にんまりした。

「まあ、お腹がすいてるの?」

彼女がキッチンへ歩いて行くと、3匹もそれぞれ嬉しそうに尻尾を高く上げながら、彼女の後をちょこちょことついていく。アンジェラがキャットフードの袋を出すと、全員一斉に鳴き始めた。

「はい、はい、はい」 とアンジェラは笑いながら、ボールいっぱいに食べ物を盛り、3匹の前に置いた。

子猫たちが食事に夢中になっているすきに、アンジェラはクローゼットに行き、中からボタンダウンのシャツとペンシル・スカート(参考)を取りだした。それをベッドの上に並べてから、バスルームに戻り、歯を磨きだした。

窓の外を見ると、シカゴの空に黒い雲がかかっているのが見えた。傘を持っていくのを忘れないようにしなくちゃと思いながら、口をすすぎ、急いで軽く化粧をし、服を着た。キーとハンドバックを握って、ハイヒールを履こうとするが、その靴紐に子猫たちがおもちゃ代わりとして噛みついている。

「ダメよ、ママはお仕事に行かなくちゃいけないんだから」

3匹は、アンジェラの言葉が分かってるのか、じゃれ遊びをやめ、引きさがり、小さく丸まって彼女を見た。無垢な瞳で見つめてる。

アンジェラは困ったふうに溜息をついた。この子たちのせいで、いつも、出かけづらくなってしまうんだから。もう、本当に可愛い。

いつまでも子猫たちを見ていたい気持を振りきるようにしてアンジェラは玄関を出た。だが、職場へと歩いている途中で、思い出した。あっ、傘を忘れてきたわ! 職場に着く前に降りださなければいいんだけどと思ったのと同時に、歩道に最初の雨の滴が落ちた。細いスカートで可能な限り速く走って、何とかビルのロビーにたどり着き、肩にかかった雨を振りはらった。

「おはようございます、ベック先生。傘をお忘れですか?」 警備の人が同情しつつ笑顔で声をかけた。

「もう、ジェームズ、からかわないで」 と、アンジェラはわざと迷惑そうな顔をして見せた。「また後でね」

「よい一日を、先生」

「あなたもね、ジェームズ」

時計を見て、最初の患者が来るまで30分ほどあるのを知った。今日一日を始める前に、少し落ち着くための時間はありそうだわ、とアンジェラは思った。



[2012/02/09] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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