僕はチャンタルに言った。
「多分、そのことを打ち明けてしまった方が、心の中に閉じ込めておくより僕自身のために良いと思う。ダイアナとは前にも話しあっていたんだ。彼女はそういう人であって、それを変えるつもりもないことは知ってる。僕もそれを受け入れたし。だから、これは彼女が悪いのではなくて、僕自身の問題。僕は、彼女に対して『嫉妬深い夫』を演じる立場にはないって…」
「ちょっと言わせてもらえる?」 と褐色の肌の彼女が鼻息荒く口を挟んだ。「あなた、最近自分の姿を鏡で見た? その男みたいな言葉使い…」
僕はくすくす笑った。
「うふふ……。分かったわ。もちろんさっきまであの着替え室で自分の姿を見てたから。…自分でもまだ信じられない。自分は気乗りがしなかったというわけではなかった。少なくとも、今夜以降は、気乗りがしないということはないと思う。まして、あなたたちがわざわざ時間をかけて私の変身を手伝ってくれたわけだし」
チャンタルは僕の手を握った。「ありがとう。そう言ってくれて。あなた優しいのね」
「ただ、あんまり短時間にいろんなことが起きちゃって…。外見の変化に頭がついて行くようになるまで、時間が必要だと思うの」
チャンタルは僕の両手を両手で握って、真面目な目で僕を見つめた。
「うーん……。そうねえ……、あなたが必要なのは時間じゃないと思うわ。あなたに必要なのは、一度みっちりセックスされること。それもできるだけ大きなペニスに。ダイアナじゃダメよ。ちゃんとした男にヤラレルことが必要。痛みに苦しむだろうけど、あなたが求めていることすべてを理解できるだろうし、自己分析できるようになるはずよ。誰か逞しい男にヤッテもらうまでは ―まあ、簡単に見つけられると分かるでしょうけど― それまでは、あなたの頭は今いる場所から決して離れることはないと思うわ…」
「…あなたが言った通り、ダイアナはああいう人で、それを変えようとはしないわ。私もダイアナのことは知っているし、彼女の考え方も知っている。ほとんど誰でも知ってると思うわ。ダイアナはセックスが大好きなの。激しくて、荒々しくて、イヤラシイほど、彼女にとってはいいセックスなの。『私を壁に押し付けて、今すぐヤッテ』ってタイプのセックスが好みなのよ。でもね、それは単なるセックス。愛し合うことについて言えば、ミス・ダイアナは正真正銘のレズビアンだわ。ダイアナは、やりたくてたまらなくなったら男を家に連れてくるでしょう。ただし、いつでもその男を追い出せると分かってる場合だけね。彼女は、誰か男に週末じゅうずっとうろちょろされるのは好まないわ。汚れた臭い服を床に脱ぎ散らかしたり、一日中ビールを飲んでテレビでスポーツを見ていたりとか、そういうことをされるのが大嫌いな人よ…」
「…一応言わせてもらえれば、ダイアナは、この1週間ずっと、素敵で、気が利いて、優しい男に出会ったって、私たちがうんざりするほど喋りまくってきたのよ。それに、その男にどれだけイカされまくったかについても。あの子、あなたにぞっこんなの。私たちみんなこう答えていたわ。『はい、はい、分かってる。そんなのみんなそれぞれ経験してることよ。最初は誰でも甘くて素敵な男。気が利いて、優しい。でも、次の満月が出る頃には、その変態男は毛むくじゃらで牙を剥きだして、あなたを泣かせることになるものよ』ってね…」
「…でも、今夜、あなたに会って、あなたとダイアナが時々アイコンタクトをしてるところとか、あなたが彼女を贅沢をさせるところとか、初めて試みたにもかかわらず、あなたが極上の美女に変身するところとかを見て、みんなすぐに理解したわ。あなたこそ、まさしくダイアナが大好きになるタイプの人だって。私は普通、女性化する男性にはそそられないんだけど、でも、あなただったら、私も喜んで手を出したくなるもの…」
「…前に私にこう言ったマネジャーがいたの。『チャンタル? もし事実を変えることができないのだったら、自分の態度の方を変えてはどうかな』って。だから、あなたも、人間関係についてと、あなた自身が何者であるかについて、その見方を変える必要があると思うわ。あなたの自由意思にせよ、ダイアナのセイレーンの歌声(
参考)のせいにせよ、あなたはこの道を歩き始めた。ダイアナがものすごく説得力があるのは私も知っているわ。本当に…」
「…いま、あなたは選択をしなければいけないのよ。このことを最後まで突き詰めるとどうなるか、そこまで見届けるべきか、それとも、とっとと引き下がるべきか。ダイアナには訊くまでもなく、彼女は前者の道を進んで欲しいと思ってるはず。いや、そうなって欲しいと祈る気持ちでいるはず。私たち他の者も同じ気持ち。もうすでに私たちあなたが大好きになっている者。あなたに離れて行って欲しくないの。信じてほしいけど、この場所では、みんながそういうふうになるのは珍しいことなのよ」
チャンタルはバーの時計をちらりと見た。
「もう次のショーの準備をしに行かなくっちゃ。私の話し、助けになったかしら?」
僕はできる限りの気持ちを込めて彼女を抱きしめた。
「あなたが思っているよりもずっと」
チャンタルは、粒ぞろいの歯を全部見せて、にっこりとまぶしい笑顔になった。
「よかった! でも、全部、本当に思ってることを言ったのよ。みんな、これからも、あなたに会いたいと思ってるわ。みんな、ダイアナとあなたに幸せになってもらいたいとも思っている。いいえ、ちょっと嘘をついちゃったわね。私は、ダイアナがあなたをみじめにさせて、あなたをどん底に突き落としてしまうと良いと思ってるわ。そうしたら、私が現れて、突き落とされたあなたを受けとめるつもりでいるから。うふふ。じゃあね!」
僕には心を打ち明けて話せる新しい親友ができた。彼女は、そう言って着替え室に戻って行った。僕は彼女が言った言葉について考えた。
しばらくするとダイアナがデートから戻ってきた。僕は自分のスツールに戻り、彼女の席を開けた。ダイアナは心から嬉しそうな笑顔を見せていたが、瞳には、少し警戒しているような色が浮かんでいた。
「私のために椅子を温めていてくれたの?」
「それもあるけど」
「このことについて話し合いたい?」
僕は首を左右に振って、彼女の手を握った。
「それは後で。…今夜、家に戻ったら。…ベッドの中で、君と一緒に寝ながら。その時が、それを話し合うのにいちばん適切な時間だと思うから」
ダイアナは僕に身体を傾け、片頬に手を添え、唇に温かく優しいキスをしてくれた。みんなが見ている前で。そして、僕の耳元に囁いた。
「あなたは本当に、私の心をとりこにするにはどのボタンを押したらよいか知ってるのね。あなたのことが本当に大好き。愛してるわ。もう、爆発しそうなほど!」