「さあ、中に入って、試着してみてください。誰も見てませんから。似合うかどうか分からない場合は、私にお声をかけてください。私の感想をお伝えいたします」
とアンナに言われたけど、声をかけるなんて絶対しないだろうなと思った。
試着室にはカギがついていたので、中に入るとすぐにロックした。部屋は試着室にしてはかなり大きな部屋だった。横幅も奥行きも2メートルほどあり、ドアの左側の壁には大きな鏡がついていた。
部屋の中を見回し、隠しカメラや覗き穴がないか確かめた。神経質すぎるのは分かっていたけど、着替え室でスーツ姿から女性用のドレスに着替えたことなど一度もなかったのだから、しかたない。盗み見されてはいないと確信した後、スーツを脱ぎ始めた。
スーツの下には元々ストッキング、ガーターベルト、パンティとキャミソールを着ていた。もっと言えば、アンジーとデートし始めてからほとんどいつもインナーはそういう格好をしていた。なので、そのままメイド服を着れば、だいたい、どんな格好になるか完成版が分かる。多分コルセットをつけるだろうけど、今はそれがなくてもあまり見栄えに影響はない。
メイド服を着て、チャックを締めて見た。ほとんどパーフェクトだった。胸元が少しゆるめだったけど、家に帰ってBカップの偽乳房をつけたら、この部分もいい感じになるだろう。思った通り、スカートは非常に短かった。実際、スカートの裾からストッキングの付け根がのぞいていた。クリノリンのおかげで、スカートがほとんど水平と言っていいほど広がっていたけど、それもまたこの服のセクシーさを増しているところでもある。
よく見ると縫製もしっかりしているので、多分、コスプレとして着るよりは、もっと頻繁に着られるように作られているものだと思った。いいと思った。まさに求めていたものだと思った。これを着たらアンジーも喜ぶだろうと思った。
メイド服を脱ぎハンガーにかけて、スーツに着替えた。その時になって、アンナがどうですかと声をかけるのが聞こえた。僕はドアを開け、この服で大丈夫と答えた。
アンナに連れられて元のカウンターに戻ると、そこにはメイド服と同じ色のコルセットがあった。それに赤いストッキングと、白いレースのカップのようなものもあった。
アンナはそれを手にして言った。
「これはそのメイド服とお揃いになってる帽子なんですよ。それにメイド服の下につける、お揃いのコルセットとストッキングもお買いになるかなと思いまして。ブラジャーについてはサイズが分からないもので。それに、パンティの方も、フレンチ・カット(
参考)がお好みか、ソングのタイプがお好みかが分からなかったので」
どういうわけか、アンナの話しを聞いてるうちに顔が赤くなってしまった。「僕が着るものではないんですよ」
「うふふ…。もちろんそうですわね。でも、独身の女性でバレンタインデーにフレンチ・メイドの服を着たいと思う人は、いませんわよ。普通ならお菓子とかジュエリーとかお花とかを求めます。本当にお客様のガールフレンドにこれを着せたいのなら、その3つ全部揃えた方がよいと思いますよ」
「花は明日配達されるはずだし、すでに大きなハート形の箱に入ったお菓子が家にある。それから、ここを出た後、ブレスレットを買いに行くつもり」
「それでこそパーフェクトな男性です。さて、ソングになさいますか? それともフレンチ?」 とアンナは両方のタイプの下着を出して見せた。
本当のところ、コルセットもバンティもブラも必要なかったけど、色がメイド服にマッチしているのを見て、どうしても買わずにいられなくなった。アンナにフレンチ・カットが欲しいと言った。これは僕の好みから。それにブラのサイズも教えた。アンナはレジに全商品の値段を打ちこみ、すべてをギフト用の箱に入れ、赤いリボンで結んだ。
その箱を僕に渡し、アンナは言った。
「お客様とお客様のガールフレンドさんがお楽しみになりますように。でも、その彼女が、この服をお客様に着せようとするかもしれませんよ。その時は驚きになりませんように。異性装は男性、女性のどちらにとってもとても楽しいことになるのが多いんです」
僕は、そそくさと礼を言い、店を出た。
まだジュエリー・ショップに寄らなくてはいけなかったし、すでに時間も遅くなっていた。もっとも、僕が遅くなってもアンジーにはあまり問題ではなかったが。
ブレスレットを買った後、家に車を飛ばした。家に着いた時、すでにアンジーは帰っていて、寝室にいた。これは幸いで、僕は彼女に見つからないように、メイド服が入った箱を予備の寝室にしまうことができた。
つづく