「違うって?」 私は甘えた声のまま続けた。「どんなふうに違うの? あなたのことじゃなくて、わたしのことを話しているから? だから違うと言うの?」
「じゃあ、あなたとスーザンのことと言い換えてみたら?」
これには傷ついた。
「それって反則技だよ、ダイアナ。これとは違う。言葉が重要って、あなたが言った言葉じゃない? 忘れたの? 私たちがここにいて、こういう会話をしていること。それだけで私たちは他とは違う関係になっているのよ。スーザンは私にそういうことをさせなかった。彼女はただ逃げていっただけ」
「でも、彼女が明日あなたのところに来て、今夜、私たちが言ったことと同じことを言ったら、その時はどうなるの? 同じじゃない? そうなったらスーザンが話しをしなかったと言うことにならないわ。ただ、話し合いをする時期が遅れただけと」
私は彼女の懇願するような褐色の瞳を見つめながら、頭の中でそのシナリオを考えていた。そして、目を閉じ、ゆっくりと頭を左右に振った。
「その点も、私たちはすでにカバーしている。船はもう出てしまったの。スーザンたちのことを知った時点で、そちらの話しは完了してしまった。私とあなたがここにこうして、一緒にいるのだから、その意味でもスーザンと私の関係は完了している。この10日間という時間の間、特に、この16時間の間に、私は心の根本を揺るがす不信状態を行き来し続け、ようやく今の状態にたどり着いたの。どういうことか分かる? 私の中ではうまくいってるのよ。私はウサギに導かれて穴に落ちたけど、帰り道を見つけるのを全然急いでいないの―あなたが私と一緒にいる限り。私の家はすぐそこだし、月曜日の朝はまだまだずっと先。だから、今はこんなバカなことは終わりにして、家に帰って、残りの週末を楽しむことにしない?」
言いたいことを強調するため、彼女の太ももにまたがったままお尻を擦りつけ、軽く唇を重ねた。これも、彼女を蕩けさせる「正しいボタン」の一つを押したことになると思った。
「車を出して」 とダイアナは呟いた。今回は目に涙を浮かべながらだった。
車を走らせたが二人とも黙ったままだった。車を私のマンションの地下の駐車場に入れ、エレベーターに乗り、部屋がある階まで上がったが、その間も沈黙が続いた。
でも、陰鬱な雰囲気も、私がドアを開けダイアナを招き入れたとたん、消え去った。彼女は私の住処の豪華さ―彼女にとって豪華ということだがーそれに魅了されたようだった。それに、窓からすぐ下に見えるミシガン湖とボート停泊地の息をのむような眺めにもうっとりしていた。少し遠方に目をやれば、レイクショア・ドライブ(
参考)が、ミシガン湖とシカゴ川を分ける水門の可動橋(
参考)が見え、そこを忙しく行き交う車が見える。
「素敵だわ」 ダイアナは夜景を眺めていた。「とても、とても素敵」
偽りなく出た言葉のような言い方だったけど、やはりよそよそしい感じがあった。リンガーズの店を出てからずっと同じだった。私は彼女を私の方に向かせた。
「そうね。それにあなたがここにいるから、いっそう。ここに連れてきた女性はあなたが最初だし、私が欲しい女性はあなただけ」
「私はいつもここにいるわけではないわ。それは前にも言ったはず」
「いや、あなたはい続ける。どこにいるかが重要。あなたはいつもここにいる…」と私は自分の頭を指差した。
「…それにここにも…」と心臓を指差した。ダイアナはハアっと溜息をもらし、私を抱き寄せ、私の胸に頭を乗せた。目に涙が溢れてきてる様子だった。
「リサ、私はあなたに値しないの…」 と呟く。「…でも、それを改めるのを自分の仕事にするつもり。信じて」
彼女は毛皮のコートからするりと抜けた。それを取ってあげようと手を出したが、彼女はそれを断った。彼女はいまだそのコートの感触に愛情を持っているようで、できる限り触れていたいと思っているのだろう。ダイアナはクローゼットを見つけ、木製の重いハンガーを選び、注意しながらコートを掛け、優しくクローゼットのドアを閉めた。
「ここから出る時は、それを持っていくのを忘れないように」 と注意を促した。
ダイアナは微笑み、頭を左右に振った。
「それはあり得ないわ。ジュエリーもここに置いて行く。コートやジュエリーを私の家に持ち帰ったら、私が背中を見せた隙に、どんな変態やら私の『友だち』と名乗るやつらが盗んでいくか知れないもの。これは全部、ここに置いて行くわ。そうすれば、私がかえるべき家として、いつでもこれと…」 とダイアナは私に優しくキスをした。「…あなたがいることになるから。あなたを私の帰るべき家にしてもいい?」
私もキスを返した。熱を込めて。
「信じてくれていいわ。ありがとう」
「何に対して?」
「ここを家とみなしてくれたことに対して。あなたがここにいると、本当に帰るべき家のように感じられるから」
ダイアナはいきなり私をカウチに押し倒し、私の上にのしかかった。私のスカートをめくり上げ、ブラウスのボタンを外し始めた。
「それじゃあ、お引っ越しパーティ(
参考)をするのはどう? 私たち二人だけで…。たくさん話したいことがあるの」
ダイアナは甘い声で言った。
つづく