部屋の片づけをしている間ずっと、アンジーの視線を感じていた。彼女を振り向くといつも、アンジーは私のことを見ていて、片時も視線をはずしていないようだった。彼女がこんなに夢中に私を見ているのを感じ、私はアンジーが見えるようにして、いろいろな作業をした。たとえば、ストッキングの付け根が見えるように、わざと前かがみになったり、時にはパンティが見えるようにしたり。
寝室を片づけ終えた後、バスルームへと移動した。そこに入って何分もしないうちに、あの小さなベルが鳴る音が聞こえた。私はつま先歩きで素早く寝室に戻った。そして、お辞儀をして尋ねた。
「何か私めにご用でしょうか、奥様?」
アンジーは驚いた面持ちで、すぐにベルを朝食のトレーに戻した。
「ごめんなさい。このベル、何のためにあるのかと思って…」
「そのベルは私を呼び出すためにありますのよ、奥様。軽く鳴らしていただければ、すぐに参ります。ご朝食はお済でしょうか?」
「いいえ、まだ」 とアンジーはトーストを手にしながら言った。私はバスルームに戻り、掃除を始めた。
バスルームの掃除が終わりにさしかかった時、またベルが鳴り、トレーに置かれる音が聞こえた。再び、つま先歩きで寝室に戻り、お辞儀をして、尋ねた。
「はい、奥様。ご用は何でございましょうか?」
「うむ、トレーを片づけてちょうだい」
私がトレーを受け取りに手を出すと、アンジーは素早くベルベットの小箱とベルを取り上げた。その箱とベルを胸元に抱き寄せ、まるで「これは私のもの!」 と叫ばんばかりの少女のような顔をした。すでにブレスレットは彼女の手首についているので、ベルベットの箱のほうは、それほどの意味はない。むしろベルの方こそ、アンジーは気に入ったのだろうと思った。
トレーを回収した後、「奥様、バブルバスのご用意をいたしましょうか?」 と尋ねた。
「いいえ、その必要はありません。着替えをしてから階下に降りて、新聞を読むつもりだから」 とアンジーは答えた。
私はトレーを床に置き、手を差し伸べて、アンジーがベッドから出るのを手伝った。彼女はドレッサーに向かい、赤ワイン色のパジャマを出した。たぶんシースルーのナイトガウン姿は、フレンチ・メイド相手にはそぐわないと感じたのだろう。
アンジーは着替えをするのにクローゼットの中に入った。これは彼女には珍しいことだった。いつものアンジーなら、何のためらいもなく私の前で着替えをするからだ。アンジーがクローゼットに入っている間に、私はベッドメイキングをした。それから自分のクローゼットからお菓子が入ったハート型の箱を持ってきて、それをベッドの中央、枕の近くに置いた。
ちょうどお菓子箱を置いた時に、アンジーがクローゼットから出てきた。彼女はすぐに箱に気づき、ベッドに駆け寄り、それを手にした。
「ジャック、あなたって素敵な男性だわ。あなたを見つけ出せて、なんて私、運がよかったのかしら」 まるで私が部屋にいないような感じで彼女は独り言を言った。
アンジーはお菓子箱を持ったまま、私のほうを向いて言った。
「私はリビング・ルームにいます。あなたはここを掃除して。この部屋、しっかりお掃除したほうが良さそうね」
アンジーはきつい言い方で命令したが、口元がほころんでいたので、彼女がこのロールプレーにのっとって演じているのが分かった。