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裏切り 第6章 (2) 

地獄の第2段階は、仕事に行く服装になることだった。スーツとネクタイ? なんて…なんて、さえないんだろう。綿のTシャツにブリーフという下着のことを思うだけでも、先の週末、そんなものよりずっと滑らかで柔らかいもので肌を包まれた後では、吐き気すらしてくる。

それに、もう一つ問題があった。それは、これから3か月ほどのうちにダイアナとする予定のたファッション・ショーである。そのための体型改造トレーニングの問題である。ダイアナは、体型改造トレーニングの秘訣は、毎日欠かさず継続的に行うことと忠告してくれた。これは私が毎日しているランニングと変わるところはない。

もしビジネススーツの中に偽乳房を装着しないことにするなら、体型改造をするには今が一番都合がよい。それはダイアナも同意してくれていた。今のうちに少しずつ体型を変化させていけば、私自身の身体が変化に慣れる時間えられるのはもちろん、私の周囲の人々にも変化に慣れる時間を与えることになるから。

ダイアナとポールが、私に女装フェチのファッションモデルをしたらと提案したとき、そのアイデアは途方もない冗談のように思えた。だけど、今は、私はその気になっている。時間が間に合えばいいなと期待している。

職場の誰も、私がビジネススーツの中に黒サテンのコルセットを着ていっても気づかないのではないだろうか? パンティを履いていっても大丈夫では? ストッキングも? それにTシャツの代わりにシルクのシュミーズを着て行ってもバレないのでは?

結局、下着女装をすることにし、その上に、全然つまらないビジネス服を着た。ビジネス服を着ながら、スエードのドレス、加えてダイアナの赤いガウンやサンダルや豪華なシルバーフォックスのコートが目に入り、それらにからかわれている気がした。切ない気持でスエードのミュール(参考)を見つめながら、黒いフローシャイム(参考)のローファー(参考)に足を突っ込んだ。

地獄の第3段階は、身づくろい関係。イヤリングは、すべて、昨夜のうちに外していた。耳にできた穴は簡単に閉じないよう、ダイアナが小さなプラスチックの栓をはめてくれた。ちょっとカムフラージュのコスメを使えば、その栓は、本当に近くによられてじっくり見られるのでなければ、気づかれない。

眉毛は剃り揃えられて細くなっている。これは、人工の眉毛をつけてごまかす。つけヒゲなどをつける接着剤を使ってつけるのだ。この人工眉毛も、専用接着剤も、カムフラージュ用のコスメも、演劇メイク専門店で買っておいたものだった。ただ、女性的な眉に比べて、瞼の低い位置に濃く茂る男性的な眉は、いかに「自然」な感じに見えるとしても、今の私にとっては不自然な眉にしか見えなくなっていた。

綺麗で長い爪は、それぞれ協力接着剤で装着したものだけど、オレンジ・スティック(参考)で注意深く剥がし、化粧台の引き出しに戻した。その下の本物の爪のところには軽くやすりをかけ、ある程度、普通に見えるようにした(「普通」って、またこの言葉だ!)

地獄の第4段階は、職場の同僚たちの前で女性っぽく振舞わないよう、意識しなければならないこと。自分が男であることを忘れないようにして行動しなければいけない。

例えば、話しをするとき両手を女性っぽく可愛らしく優雅に動かしたりしないようにしなけれないけない。それに、髪の毛をいじったり、外してしまったイヤリングを気にするように耳に手を当てたりするのもしないよう、気を使わなければいけない。

脚を組む時も、膝の上に膝を乗せるのではなく、片方の膝の上に足首を乗せるのだ。脚をまっすぐにして。

それにしても何て変なことだろう。逆転したビクターとビクトリアと同じ。女性になろうと振舞っている男性が、無理に意識して、男性になろうと振舞わなければならないなんて!

それにしてもいったい自分に何が起きてるのだろうか? 男性としての確固とした自己イメージにどんな変化が生じてしまったのだろうか? 私は、ダイアナという美しくミステリアスな女性に、いとも簡単に誘惑され、自分の「隠れた一面」に嵌まってしまったのだろうか?

あるいは、その男性としての自己イメージこそ、注意深く育成されて得られた嘘の姿であって、ダイアナは、単に、私の子供のころからの隠れた欲望を解放する触媒にすぎないということなのだろうか? 私はダイアナに、彼女は私が妻と別れるための単なる触媒にすぎなかったと言ったが、ちょうどそれと同じことなのだろうか?

私の人生は二つに分断されているところなのだろうか? それとも、長い年月を経て、ようやく一つにまとまろうとしているところなのだろうか?

疑問は山ほどあるのに、答えはほとんど出ていない。

ともあれ、上手にショーを演ずることにしよう。まさに、ショーをすると考えればよいのだ。会社の経営と職場の同僚たちのためには、それが最善。同僚たちの目を注意深く観察すること。同僚たちは、何かを面白がったり、何かに気づいたり、あるいは何かを感じて目を輝かすかもしれない。できれば、そういう表情は見ないで済むとよいのだが…。

ひとつひとつのことについてよく考えるのこと。同僚たちになんら疑念を抱かせずに済んだら、私は安心できる。…いや、あるいは自分の女性化のレベルはそんなものかと、がっかりするかもしれない。ともかく、口にチャックをして秘密を守ること。


[2012/08/27] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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