「でも、私たちの本物の情報の方はどうなの? そっちは本当に安全?」とディ・ディが訊いた。
「アハハ。さらに超がつく天才でも現れない限り、僕たちの情報に近づくことはできないだろう。そもそも、肝心のデータベースはサーバーに置いていないんだ。もっと言えば、コンピュータ室の中にも置いていない。連中は、ここに侵入してきて、僕たちのハードウェアを全部押収するかもしれない。けど、そうしても僕たちのデータベースは得られないわけだ。ウチには世界で一番賢いプログラマーたちがいて、セキュリティ担当になっているんだ。セキュリティは決着した仕事と思っている」
「でも、そもそも、あなたはどうしてこういうことが分かったの?」
「覚えているかな? あの時、僕はモリスにいくつか質問しただろ? 僕は娘たちに、その時のモリスの心の中での返答に耳を傾けるように指示しておいたんだ。あいつは何も隠せなかったよ。できるわけがない。エマには、必要なら、ちょっと懲らしめて情報を惹き出しても良いと知らせておいた。エマはあいつの脳をちょっといじって、懲らしめた。数分もしないうちに、あいつは落ちたよ。全部、白状した」
今度はドニーが訊いた。「そう…。でも、政府はあの男を解放するんじゃない? 私たちの子を誘拐しようとした後でも、釈放されて、自由に歩き回るようになるんじゃ?」
「いや、そうはならないと思う。僕たちは、ここバロック郡でいちばん政治献金をしている者たちと言えるんだよ。僕たちは、郡警察の長を選出する時に援助をした。市長の選出でも援助をした。判事の選出でも援助をしたし、郡行政委員の選出でも援助をした。そろそろ、見返りを要求しても良い時期だ」
ディ・ディはいぶかしげな顔をした。「どうしてあなたはあんなにお金を出すんだろうって、ずっと前から不思議に思っていたわ。あなたは政治家を嫌っていたじゃない?」
「いや、地方政治家は良い仕事をしているんだよ。僕が知る限り、地方行政体は、たいてい、地元の有権者のために一生懸命働いてくれている。ここの郡でも同じだ。地方の政治家たちは良い人だ。僕が軽蔑してるのは、国レベルの中央の政治家たち。どの政党に属しいようと、関係ない。中央政治家はほとんど全員、どうしようもない連中だ。だけど、僕は彼らを責めたりはしない。なんだかんだ言っても、この腐れ切った政治体制を作ったのは僕たちなんだから。彼らは与えられた手札でプレーしているだけ。だから連中を責めたりはしない。ただ、それでも軽蔑はしているけど」
ドニーが口を挟んだ。「ディ・ディ? あなた、またアンドリューを脇道に逸らせてしまったみたいよ。私たちは、あの男のことを話していたのよ。何て言ったっけ、あの男の名前? モリス?」
「このモリスという男は、わざわざ、家に押し入り、誘拐をしようとした。これは大変な重罪だ。僕たちは、あいつに、真相を話さなければ、かなり長期の刑期を課されることになるとしっかり認識させようと思う。そうさせるのは簡単だ。あいつが法廷に出てきた時、エマが一番いいけど、子供たちの誰かがあいつの近くにいるようにすれば、簡単だ。家の子供があいつに白状させる」
「それにしても、司法長官が私たちに何の用だったのかしら? 私たち、ぜんぜん波風を立てていないはずでしょう?」 とディ・ディが訊いた。
僕はうんと頷いた。「でも、僕たちにはすでに200名近くの子供がいて、その全員がテレパス能力を持っているんだ。そういった情報が権力の中枢に届かないといったことは、たぶんあり得ない。母親たちには全員、すべてのことを黙っているようにと言ってあるけど、90名の母親全員について、口を閉ざしているかをチェックするなんてできないから」
ドニーは納得しなかった。「アンドリュー? 罪を犯したことのない者が、まず、この女に石を投げなさい、という教えがあるわよ。あなたが話した女性には、私が知ってる女性がたくさんいるの。男女差別的なことを言うのはやめて、あなたが考えている一番新しい理論で話しを続けて」
「ああ、僕たちが連中のお尋ね者になっている理由は、2つあると思う。ひとつは、僕たちが宗教的権利を気にする人たちには、あまり人気がないだろうということ。僕は、新能力をもった子供たち全員の父となっていることもあるし、僕には妻が二人いることも大半が知っている。テレパシーをもった子供たちのことを別としても、一夫多妻を実行している僕に反感を持っていて、僕を憎悪を向ける対象リストの最上位に据えたいと思う極端な宗教信者は必ずいると思うんだ。そういう人の中には、今の行政府に圧力をかけるかもしれない。それに行政府の中には重要な地位についてる宗教狂はたくさんいるからね…」
「…もうひとつは、連中が娘たちを狙ってきたということ。それは連中が何か知っていることを意味している。娘たちのIQが高いからという、それだけの理由かもしれない。超天才の子供をさらって、どんなことができるかを調べたいと。あるいは、テレパシー能力がバレているのかもしれない。モリスは、娘を誘拐する理由については知らなかった。だから、この点については僕の推測でしかないのだけど」
「これから、どうする?」 とディ・ディが訊いた。
僕はにっこり微笑んだ。「子供のころ、リトルリーグのコーチがいつも言っていたよ。完璧な守りこそが最大の攻撃になるって。向こうには税務署もあれば、ナパーム弾もあるだろうけど、こっちにもエマがいる。そろそろ、エマを解き放ってもいい頃じゃないかと思ってるんだよ」
つづく