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ジャッキー 第12章 (3:終) 

僕の言葉を聞いて、アンジーはさらに嬉しそうな顔に変わり、再び両腕で僕の身体を包み、抱きよせた。あまりにきつく抱かれ、僕は呼吸ができないほどだった。同時にキスもされた。情熱的なキスで、唇を重ねると同時に彼女の舌が僕の口の中に入ってきた。まるで喉奥まで到達しようとせんばかりに深く舌を入れてくる。

とても長い時間キスを続けた後、ようやくアンジーは唇を離した。「あなたのおかげで、私、とても幸せよ。さあ、私にこれをあなたの指につけさせて。私たちの約束の印として」

アンジーは上着のポケットから青いベルベットの箱を取り出し、ふたを開けた。中には、男性用の指輪があった。ゴールドのリングで、中央に大きなダイヤモンドがついている。アンジーは指輪を手に取り、僕の左手の薬指にはめた。

指輪をはめてもらった後、僕は彼女に言った。「指輪を贈るのは僕の方だと思うけど」

「普通はそうだけど、あなたも私も、私たちの関係はたいていの人とは違うのを知ってるでしょう? それに、私、おばあ様の婚約指輪を譲ってもらっていて、私が誰かと婚約したら、それをつけると約束しているの。とても思い入れがある指輪なの。だから、あなたが気にしないでくれたらいいと思っているんだけど」

そう言ってアンジーは別のポケットからもう一つ指輪の箱を出した。とても古いもののように見えた。ホコリで赤茶けていて、周辺も擦れてボサボサになっているようだった。彼女はその箱を開けたが、中に入っていた指輪を見て僕は驚いた。

3カラットのマーキーズ・カットのダイアモンド(参考)でリング部分はゴールドだった。ダイア自体は良い状態に見えたけど、かなり由緒のある古いものだというのはすぐ分かるし、リングのゴールドもかなり擦れているように見えた。どうして、彼女に、この指輪は嵌められないよと言えただろう? それに、そもそも僕には、その指輪の代わりに同じ価値の指輪を用意することなどできなかった。

アンジーは手を出し、僕に指輪を嵌めさせてくれた。指輪を嵌めた後、僕たちは再びディープキスをし、互いに相手を深く愛していると伝えあった。

二人とも外に立っていたけど、寒さが耐えがたくなり、ようやく車に戻った。アンジーがエンジンをかけたままにしていたので、車の中は暖かかった。

それから、また、何度かキスをした後、アンジーが言った。

「そろそろ、私からのバレンタイン・プレゼントを上げてもいいかしら?」

僕自身の感覚としては、すでにプレゼントをもらっているようなものだったし、たとえどんなものをもらっても、彼女にプロポーズされたことより上回るものとは思えなかった。 「欲しいと思ったものは、もうすべてもらっているよ。もうこれ以上、プレゼントは必要ないと思うけど」

アンジーは僕にチュッとキスをし、言った。「もう一つだけ、あなたにさし上げたいものがあるの。飾りもの的なプレゼントというより、もっと役に立つものよ」

彼女がどんな物のことを言っているのか、僕には分からなかった。

アンジーは車を動かし、守衛に手を振り、グラウンドから一般道に出た。僕たちは、道路を走る間、安全のために離さなければならないときは除いて、ずっと手を握ったままだった。

気がつくと車は、新車がずらりと並ぶスペースに来ていた。アンジーはレクサスのディーラの店の前に車を寄せた。

車を止めると、ショップの中から高級そうなスーツを着た男が出てきて、アンジーのためにドアを開けた。車から降りると、その男が言った。

「マクドナルド様、ご来店、嬉しく存じます。土曜日に来ていただけるものと、お待ちしていたのですよ」

「私も来ようと思ったんだけど、私のフィアンセがサプライズのプレゼントを用意してくれていて、どうしても出てこれなくなっちゃったの」 アンジーはそう言って、そのセールスマンと握手し、僕のことを紹介した。

「お車は、詳しく点検させまして、店の裏手にご用意してあります。すぐにお乗りできますよ。ちょっとお待ちください。すぐに戻ってまいりますから」 と男は小走りでディーラ・ショップの裏手に消えた。

彼が去った後、僕はアンジーに、「新しい車を買うの?」と訊いた。

「ええ、まあ、そうも言えるわね。車を買うけど、私の車じゃないわ」

どういうことか考えているうちに、先のセールスマンが新車のレクサス300ESに乗ってやってきた。赤いボディで中は黒革仕様だった。後で分かったのだけど、それはオプション装備もすべて完備していた。

セールスマンは車を止め、中から出てくると、キーをアンジーに手渡した。するとアンジーはそのキーをそのまま僕に手わたした。

「ジャック、バレンタイン・デーおめでとう」

唖然として、口がきけなかったと言っても誇張ではない。多分、それでも控えめすぎる表現だろう。口から一言も言葉が出せない感じだった。アンジーもセールスマンも満面に笑みを浮かべて僕を見ていた。セールスマンは、僕が唖然としているのを見て、アンジーに言っていた。「フィアンセ様は驚きのようですね。元に戻られましたら、ショップの中に連れてきていただけますか。書類にサインをしていただきたいので」

セールスマンが去った後、僕は二度ほど生唾を飲み込み、ようやく言葉を発した。「アンジー、これは一体…?」

「単純なことよ。あなたにバレンタインデーのプレゼントとして車を買ってあげただけ。気に入らなかったら、別の色やスタイルのに変えてもいいわよ」 アンジーは明らかに嬉しそうだった。

「アンジー、僕は別に別の車はいらないのに。いまの車で十分なのに」

「うふふ…。あなたの車、10年は古くて、ポンコツじゃないの。もうあれだと、安全とは言えないと思うわ。なんだかんだ言っても、この冬、エンジンがかからなかったことが3回はあったでしょ? あなたが安全で良い車に乗っていると分かるだけで、私はとても気分が休まるの」

アンジーに反論して、あの車を買うのをやめさせようとしてもムリだと思った。彼女がいったん決心したら、それを変えることは不可能なのだから。それに、本当のところは、今の僕の車はダメになりかかっているので、新しいのが欲しいと思っていたところだった。僕が買うとしたら、もっと安い車を買うつもりだけど、それでは、たぶんアンジーはうんと言わないだろうと思う。

アンジーはすでに車の代金を払っていたのを知った。書類にサインをした後、僕は彼女の車の後についてレクサスを走らせ、家に戻った。ディナーに出かけるために、一度、着替えをし、その後、二人でレストランへ向かった。この時は、僕の新車で行った。アンジーが僕に運転させてくれたのは、この時が初めてだった。

レストランの後、家に戻り、深夜まで愛し合った。翌日からは、またいつも通りのスケジュールに戻った。それから間もなくして、社内で、アンジーと僕が婚約したという噂が広まった。ほとんどすべての人から、おめでとうの言葉をかけてもらった。

その次の週末、アンジーは、ジャッキーとしての僕に結婚を申し込んだ。もちろん、ジャッキーは、二つ返事で承諾した。アンジーはジャッキーに女性用の婚約指輪を贈った。1カラットのマーキーズ・カットのダイヤの指輪だった。その指輪を嵌めた瞬間から、僕はジャックの時は男性用の指輪をはめ、ジャッキーの時は女性用の指輪をはめるようになった。

つづく


[2012/10/29] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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