「ここらあたりで、もうちょっとセクシーになる必要があるんだなあ・・・チャンスは2度ないってのが普通なんだ。一番いいところを・・・いや、体の部分で、君が望むところならどの部分でもいいけど・・・そこんところをぐっとアピールする必要があるんだよ・・・」
そこでちょっと間を置いた。
「・・・例えば、お尻なんかどうだろう?」
「私のお尻?」
彼女は先を聞きたがってるようだった。
「ふと気づいたんだけど、君のお尻は素晴らしいと思ったんだ。そこのテーブルのところに行って、それに覆い被さるようになってもらえるかな?」
彼女はテーブルの上に両肘をついて、足をだいたい30センチくらい広げて立った。お尻がキュッと上がって見える。水着もよくできていて、お尻のラインは戦略的にカットされている。そのカットされているところから、彼女のつるつるの肌の尻頬が見える。彼女は、音楽のテンポが速くなってくるのを聞いてヒントを得たのか、音楽に合わせて、爪先立ちになっては、元に戻る、という動きになった。さらに脚を広げる。かなり広がった。そこでポーズを取って見せた。その後、再び脚を閉じ、今度は片脚をまっすぐ後ろに伸ばした。フィギュア・スケートの選手がリンクを滑るときのような格好になる。
僕は彼女の後ろ、膝をついてしゃがみこんだ。彼女から1メートルか1メートル半くらい後ろの位置だ。完璧と言ってよい丸みの引き締まったお尻と、その真ん中を分断している、水着の滑らかで、ピンと張り詰めた、細い生地。それをじっくり凝視していたところ。彼女が僕に訊いている。
「これ、いい?」
はい、とてもいいです。
「え? ああ、確かに」
大変良いというのを通り越した良さだ。今月のピカイチ! おすすめお尻! お尻女王! 90年代最高のお尻嬢! しかも今96年だからまだ3年残ってるし。 必勝確実の名馬! モーティに馬券買ってくれと電話だ!
僕は彼女の脚の間に意識を集中させた。薄い水着の生地に覆われた部分。
「そろそろ水着を脱いで見る頃合かな?」
時々、こういう文を言うのが難しく感じることがある。どうしても、言葉のあいだあいだに、「ああ、お願い、お願いだから、んもう、本当に、頼むよ、お願い」と間投詞を挟みたくなってしょうがなくなるのである。こういうことを言わないように注意しないと、僕は、ただの、気弱なバカになりかねないのだ。だが、おい、俺も男だぜ。俺は強いのだ。決してガードを緩めなかったのだ。陰謀はまだ渦巻いている! 諸君、連帯だ! おう!