その後は拷問が始まった。甘美な拷問だと思うけど。こんな拷問は私は予想していなかった。つまり予想それ自体が拷問になったということ。彼は、いったいいつ次のチケットを使うつもりなのか? それが分からなくて拷問されてるみたいになった。
ずーっと使わないで取っておくつもりかも。…彼はそういうところがある人だから。でも、その一方で、彼はそんなに長く誘惑に負けないでいられるとも思えない。
どこか変な場所で求められるだろうとは思っていた。彼と一緒に、人がいないところに行ったときとか、ときどき私はアレのことを思うことがあった。それに、そういうのは私も興奮する。
チケットを渡してから、夕方とか私が少しはしゃぎ気味になることが多くなった。なぜそうなったか、彼に分かっているかしら? 一緒に出かけても、気がつくといつの間にか私はアレのことを考えている…
原理的には、彼は、誰か他の人の目の前で私にあのチケットを渡すこともできる。でも、彼ならそんなことはしない。私には分かる。だからこそ、こんな危険な賭けもできたのだから。でも、それでも、あのチケットのことで私はいつもハラハラどきどきするようになっていた。
ええ、確かに認めるわ。これは予想していなかった。家で彼とビデオを見ていた時だった。『トゥルーライズ』 ホテルの一室にジェイミー・リー・カーティスがいるところのシーンで、突然、私の手にチケットが握らされてた。ビルは何食わぬ顔でビデオを見てる。
いいえ、ジェイミー・リーについてはどうでもいいの。実際、もっと言えば、リビングでビルと私の二人っきりの時でなくて、ちょっと安心もしていた。彼はカウチにゆったりと座っていて、私は前屈みになって直立した彼の勃起に顔を被せていた。彼はビデオを見ながら、ゆったりと私の髪を撫でていた。
ええ、その夜、二人は愛し合ったわ。そして、私はこう思ったの。彼がとても変なことを要求するかもなんて、最初から心配していなかったけど、それでも私は、こんなふうに安堵感を感じている。ということは、私は、ひょっとして心の奥底では最悪のことを予想していたのじゃないのかと。
そう思うようになってから、私は少しリラックスしたと思う。前よりちょっと運命論者的な気持ちに変わったと。いつどこで求められても、それは運命。どうしようもないと。あたかも、私の側でどんな心配をしても、そんなこと何の意味もないと、無意識的に悟った感じ。
でも、その後、ショックが私を待ち受けているとは。
私の姉夫婦の家でだった。姪と甥が走り回っている家の中。彼は、辺りに誰もいなかったけど、バスルームのドアのところに私を連れて行き、そこで手に持っていたものを私の手に押し付けたのだった。危うく私は何か言いそうになってしまった。どうしてよいか分からず、もちろん、直ちにパニック状態になってしまった。だけど、私が決めかねているのを見たからか、ビルは私をバスルームの中に連れ込んで、ドアを閉めてくれた。
速さが大事。できるだけ速く済ませた方が良い。それは分かっていた。でないと、誰かが私たちがいないことに気づいて探し出すだろうから。
そうなったらもう、私の方にはためらいはなかった。できるだけ速く彼をいかせること。そのために最善を尽くせばよいのだから。私が何をしようとしているか、彼にも分かっていたのを私は知っている。彼は何も言わなかった。ひどい人! でも、彼はこういう危険状態を楽しんでいたに違いない。
私は何とか目的を達成し、ほとんどあっという間に二人ともバスルームから出た。そこから出る時、私は彼のお尻をぴしゃりと叩いてやった。私が彼をあんなに強く叩けるなんて自分でも知らなかったけど、彼は全然、怖気づいた様子はなかった。私の方を振り向いて、訳知り顔でニヤリと笑って見せる。ええ、その夜もやっぱり、私たち愛し合ったわ。私はほとんど狂ってしまったかのように燃えあがった。