イサベラは小さなうめき声を上げながら、意識を取り戻した。頭がずきずきし、手をそこに当てようとするが、頭全体に電光のように苦痛が走り、思わず手を引っ込めた。額にビーズ玉のような汗を浮かばせながら、彼女は横たわったまま、動かずにいた。痛みと目眩が回復するのを待ちながら。
横たわりながら記憶をたどった。レオンは眠っていた。召使たちが目を覚ます前に、彼の暖かいベッドから滑り抜けた。そして父が現れた。短剣も。雷に撃たれたようにイサベラは身体を起こした。苦痛が襲い、一瞬、顔をしかめ、目をつむる。その後、ゆっくりと再び目を開いた。レオンに危険が迫っていることを知らせなければいけない。
ハッとなって、胸元を握り、視線を落とした。青いシフォン(
参考)のガウンを着ている。深い青で紫に近く見える。袖も左右そろって肘から下がってる。小さな膨らみの胸も胴着に包まれたまま。指先を震えさせながら髪に触り、解いた髪にちゃんと花飾りがついているのを見つけた。ようやく安心し、イサベラは固唾を飲んだ。これなら、あいつはしなかったはず……
物音がし、ハッと驚き、イサベラは顔をその方向へ向けた。急に動いたため、くらくらと目眩がしたが、やがてそれも収まる。だが、みすぼらしい小部屋の扉にもたれかかるがっちりした巨体の男を見て、彼女の心臓は高鳴り始めた。男はけだるそうに腕組みしてこちらを見ていた。
イサベラは震えながら一度、深く息を吸い、そして言った。「この国には、父親と娘の結婚を許すような神父はおりません」
男は唇を歪ませた。だが、イサベラの身体にねっとりとした視線を這わせる、冷酷な茶色の目には、彼女のユーモアは伝わらない。
「おらんかな?」
男はイサベラの方に大股で歩んだ。イサベラはあわてて後ずさりした。背中に冷たい石壁を感じるまで。
「おりません」
小さな声だった。彼女は、ここが神父の控えの間であることを知っていた。シャボニューの地に建つ教会の主室につながる控えの間である。この地ならレオンはそんなに離れたところにいるわけではない。そのことにわずかな安堵を感じつつ、イサベラは父親の目を睨み返した。何とかしてここから逃げてレオンの元に行く方法を考えなければ。自分が焦っているのを感じる。
「だが、新郎になるのがわしではないのは幸いのようだな」
一瞬、理解できなかった。ああ何と、父は私を知らぬ男と結婚させようとしている。愛してもいない人と結び付けようと。おそらく、父の邪悪な欲望から私を守ることなどしない男…
父親が目の前に腰を降ろすのを見て、イサベラは固唾をのんだ。
「お前が自分の義務をちゃんと果たしておれば、こんなことは全部、いらぬことだったのだがな」 とイサベラの父アランは彼女のシルクのような赤毛を掴んで言った。「だがお前の頑固さのため、他には手だてがなくなってしまったのだよ」