僕は、お化粧の技術はそれほど会得してないことを正直に告白した。すると、僕のことを捉えて離さないアンジーは、私がすると言い張り、すぐさま、まつ毛とネイルを僕につける作業に取り掛かった。
このお化粧時間の間、アンジーは、僕の取ってつけたような男性的眉毛の秘密を発見し、大喜びした。そして、一瞬のうちにそれを剥ぎ取り、その代わりに鉛筆で、劇的なほど高く、細い眉を描いた。その形は、僕がこの週末、ずっと愛着を感じていた眉の形だった。さらに、アンジーは耳のピアスをカモフラージュしていたことも発見し、またも大喜びし、唇をすぼめて、大げさに頭を振って見せた。
「リサ、あなたって、本当に驚きの宝庫!」と浮かれた調子で彼女は言った。「ただ単に仕事をしに来るためだけに、これ全部を隠さなくちゃいけないなんて、本当に死にそうな思いだったんじゃない? こんなに綺麗になるあなたを見ただけで、そして、あなたが息のつまりそうな男性人格で、ものすごく冴えない状態に甘んじてたを知っただけで、私、死にそうよ」
アンジーの仕事が完了した。その出来栄えはと言うと、クラブの女の子たちが土曜の夜に僕にしてくれたような、全面開花したドラッグ的ステージ・ガールのルックスではない。しかし、劇的でエキゾチックなラテン娘のような印象が現れていた。特に唇。濃い赤ワインの色の輪郭を描き、中は鮮やかな赤で染め、全体にキラキラ光るグロスを塗っている。この週末ずっとつけていた爪と、今のえんじ色の長い爪。どっちも見栄えや雰囲気の良さは変わらず、優劣がつかなかった。
アンジーの指示に従って、アクセサリー類をつけ直し、仕上げに香水をスプレーした。
「素敵よ、リサ! じゃあ、今度はヘアに移りましょうね。ちょっと待ってね。つける前に作業させて」
ダイアナとカツラを買う時、僕たちはプロ用のカツラ、プロ用のスタイリング用ブラシ、それに、もちろん、プロ用のヘアスプレーを選んだ(「ヘアスプレーというのは、ショーガールの一番の親友なのよ」とダイアナが言っていた)。
いま、アンジーはブラシとヘアスプレーで僕の光沢のあるカツラに攻撃をしている。そして、あり得ないとほどの短時間で、彼女はそのカツラのボリュームを、比ゆ的にも文字通りにも、大きくかさ上げし、僕のお化粧の劇的な印象を補う形に変えたのだった。
「ほら、これこそ、私がさっき言っていたこと」 と彼女は嬉しそうな声をあげ、いったん手を休め、ウインクしてみせた。「私はあなたの有能な秘書だということ。さてこれをあなたにつけさせて。出来栄えを見るのが待ちきれないわ」
最初に伸縮性のあるメッシュが頭に被せられた。これを使って、やや長めの地毛を固定する。その後、彼女は、ちょうどミミがしてくれたように、カツラを注意深く装着した。後頭部についてるヘア止めをパチンと止めて押さえる。
その後、僕自身がアンジーのやり方を真似て、カツラを地毛にボビーピンで固定した。化粧台の鏡の中、視線を向け会うアンジェリナの笑顔と僕の笑顔が並んでいた。
「すごくいいわ…」と彼女が呟いた。「今度は靴よ。気取って歩く姿が見たいわ」
心臓がドキドキしていた。でも、これはもはや不安感からの動悸ではない。今はすっかり、これに嵌まっているということ。僕はミュールに足をするりと入れた。摩天楼級のスティレットのおかげで、脚が形良く伸び、胸とお尻を突き出す形になる。自分が無敵の美女になったような気持ち。
ダイアナが造作もなく流れるように部屋を歩く姿を頭に浮かべた。そして、意識的に自分の身体に彼女の真似をするよう命じた。
「ああっ…すごーい!」 愛らしいラテン娘が叫び声を上げた。「ああん、これって、歩くポエムよ! たった二日間で? あなたって、これのために生れてきたんじゃない? 私も負けないように頑張らなくっちゃ!」
興奮がーあるいはシャンパンがー効果を出してきたようだ。「アンジー? ……この相互倒錯の会を中断するのは嫌なんだけど、ちょっとトイレに行きたくなってしまったので…」
アンジーはアハハと笑い、頷いた。そして化粧台の前に座った。
「いってらっしゃい。私は、ここにある素晴らしいお化粧品のコレクションを使わせてもらって、お顔を直してるから」