ノボルの携帯電話が鳴り、二人は目を覚ました。ノボルは、けだるそうに電話を取り、「モシモシ[Moshi moshi]?」とつぶやいた。
アンジェラはその姿を眺めていたが、突然、ノボルが緊張しだし、電話の向こうの人が語ることに、ひとつひとつ頷くのを見た。
「ヨシ…。ハイ……ハイ……。ソレデハ[Yosh. Hai. Hai. Sorudewa]」
ノボルは電話を切ると、ベッドの中、寝がえりをうち、アンジェラの身体を包むように、体を丸めた。
「私の部下が今からあなたの家の物を運んできます」
「こんなに早く?」 ノブは確かに仕事が早い。
「サブローには、あなたに関する情報をさぐる時間を一切与えたくなかったから。そんな情報を与えてしまったら、あいつにとって役に立つことになるかもしれない」 とノボルはアンジェラの肩に優しく唇を這わせた。「あなたの家族はどちらに?」
「カリフォルニアよ。どうして?」
「良かった。それなら、すぐに危険になるというわけじゃない」
ノボルはシーツを払いのけ、立ちあがった。黒いキモノのローブを羽織り、腰に帯を巻く。振り返ると、アンジェラがずっと見ていたのに気づき、照れくさそうに笑った。
肩まで伸びた漆黒の髪。振りかえったときの彼の表情。それを見て、アンジェラはノボルの唇がいっそう誘惑的に見え、なおも彼を見つめ続けた。
「その人たちがここに来るまで、どのくらいかかるの?」 とアンジェラは意味ありげに訊いた。
アンジェラが興奮してることを示す匂いがノボルの鼻孔を満たし始め、彼の瞳に浮かぶ表情が、明らかに邪悪っぽく変わった。
「残念ながら、そんなにかかりません」 意志の力を最大限に発揮して、なんとか勃起を抑え込む。「…あなたは、私の命なのですから」
突然、ノボルがドアの方に聞き耳を立てた。アンジェラには何も聞こえず、奇妙に見えたが、彼の部下たちが到着したのである。ノボルはドアを開けると、黒スーツ姿の大きな日本人男性が4人入ってきて、礼儀正しくお辞儀した。男たちは、ノボルから日本語でいくつか命令を受けた後、アンジェラの持ち物を入れた箱々を搬入し始めた。小型の家具も運んできている。
見知らぬ男たちが動き回るのが居心地悪いのか、イン、ヤン、スノッティの3匹はベッドに飛び乗り、彼らを見るアンジェラに擦り寄った。アンジェラはシーツを前に引っ張って身体を隠している。
男たちは作業を終えると、動きを止め、アンジェラへと顔を向けた。アンジェラはノボルが男たちの視線を追っているのを見た。そして、彼が彼女を見た時、その顔にわずかに自慢げな表情が見えているのに気づいた。4人の男たちはアンジェラに深々とお辞儀し、ノボルに退出する旨を伝え、そして出ていった。
ノボルは階段を上がり、猫たちの邪魔をしないよう気遣いながらアンジェラの隣に座った。インとヤンはすぐにゴロゴロ喉を鳴らし、頭をノボルに擦りつけ始めたが、スノッティは迷惑そうな顔を見せ、ベッドから飛び降りた。
「ゴメン[Gomen]、スノッティ君。でも、君はお母さんを独り占めしないようにしないといけないよ。アハハ」
こげ茶色のスノッティは、無視するようにあくびをし、「それはお前のことだろ」と言いたげに目を細め、頭をぴんと掲げて、偉そうに歩き去った。
「ナニ[Nani]?」 とノボルは自分の腰のあたりに目を落とした。アンジェラがキモノの帯をほどこうとしている。
ノボルは自分でキモノのローブを脱ぎ棄てた。アンジェラは彼の分身が目の前に直立するのを見て、いたずらっぽく微笑んだ。
顔を下げ、彼女はノボルのそこの、むっとするような匂いを嗅いだ。
「まあ、とてもいい匂いがする…」
その言葉にノボルの勃起がピクッと反応した。アンジェラは頭部の皮を引き下げ、ぬるりとした表面を軽く舐めた。
「ノブ? 一日じゅう、ずっとあなたとしていたいのに、どうやったら仕事できるかしら? そんな気になれないわ…」
それを聞いて、ノボルが突然、真剣な顔に変った。
「何? どうしたの?」