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無垢の人質 第10章 (7) 


イサベラは身をこわばらせた。大きな手が腰からするすると降り、尻頬をつかまれる。そして、次の瞬間、突然ぐっと抱き寄せられた。イサベラは、両手を父親の胸板につっぱねて抗った。だが、それも敵わない。彼女が解放されたのは、主広間から大きな声で呼ぶ声が聞こえた時だった。父親がひるんだのを機に、イサベラは彼を押しのけ、主広間へと駆け逃げた。

教会の入り口に立っていたのはレオンだった。恐ろしい顔をし、険悪な目つきで辺りを見回し、警戒していた。やがて、その目は乱れた服のイサベラを発見する。彼の目がさらに細くなり、険悪さを増した。

イサベラは背後で父親が何事か叫ぶのを聞き、「イヤッ!」と叫んだ。階段を駆け下り、レオンの元へと走る。ただレオンだけを見つめて。イサベラはレオンに危険が迫っていることを伝えたかった。

だが、イサベラは無防備すぎた。突然、背後から腕が伸びてきて、捉えられしまった。イサベラはもがき逃れようとするが、捉えた者は暴れを収めようと、彼女を抱き、かかえ上げた。イサベラの足が地面から浮く。

「逃げて!」

イサベラは叫んだ。脚をばたつかせ、捉えた者を蹴る。だが、彼女の脚は流れるようなスカートの布地に絡まり、思うようにいかない。

突然、喉元に冷たい鉄製の物が当てられるのを感じ、イサベラは動きを止めた。ただ、恐怖に満ちた瞳でレオンの瞳を見つめている。

アランの部下たちが、剣をかざし、レオンの動きを封じた。レオンは黙ってはいたが、全身から怒りを発散していた。

「イサベラを放せ。お前が用があるのは俺のはずだ」

レオンは一歩前に進み、教会の中に踏み込んだ。それまで扉を開いたままに押さえていたレオンだったが、彼の抑えがなくなった今、扉が彼の背後で閉まった。そのために、レオンはたった一人になり、何十人もの武装した衛兵たちに対峙することになった。

イサベラの身体の中のすべてが「いやッ!」と叫んだ。

「ほー、何と感動的な。その態度、まさか本当にお前はイサベラを気づかっているように見えるではないか」

アランは胸の前で両腕を組みながら微笑んだ。彼はいま控えの間に通じるドアの前に立っている。

「イサベラを放すんだ」 レオンはイサベラから目を放さずに繰り返した。「この教会は俺の部下たちに取り囲まれている。彼らには、イサベラが無傷で解放されたなら、お前が咎めなくショボノウの門を通るのを許してよいと命令を受けている」

「レオン、いけない!」 イサベラが叫んだ。レオンに分からせなければ。城に戻るよう伝えなければ。もしレオンが私と結婚してしまったら、父が企んでいるように、レオンは事実上、殺されることを確実にしてしまうことになる。「レオン、決して…」

「こらこら、イサベラ。いい子になって静かにしてるんだ」 とアランは何事もないかのように言い、イサベラに歩み寄った。「わしはイサベラも、お腹の子も、傷つけるつもりなどないのだよ。お前がわしにそうするよう仕向けない限りはな」 と彼はレオンに言った。

イサベラは燃えるような怒りもあらわに、隣に立つ父親を睨みつけた。アランは手を上げ、彼女の紅潮する顔にかかるシルクのようなほつれ毛を優しく撫で、元に戻した。それを身震いしながら耐えるイサベラ。

「それにお前もだ、ドゥ・アンジェ。お前も、わしの希望に従うならば、傷つけるつもりはない。いったんわしのここでの仕事が完了したら、わしもわしの家来も直ちに帰路につくだろう」



[2013/02/07] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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