「お前の欲しいものは何だ、ダルザス?」
レオンは、剣を抜いてかまえる十数名の衛兵たちに一切目もくれず、堂々とイサベラの方へと進んだ。アランが合図を送ると、衛兵たちは一斉に動き、ぎこちない構えで歩み進むレオンを取り囲んだ。
だが、レオンは平然と衛兵たちの群れの中へと進み、彼らの前を通り過ぎた。まっすぐにイサベラだけを見つめ続け、衛兵どもなどまったく眼中にない様子だった。
レオンが衛兵たちの中5メートルほどに進んだ時、アランは手をかざし、止まれと命じた。レオンはそれに従ったが、決して好んで止まったわけではないことは、誰の目にも明らかだった。
「お前が欲しがっているものと同じだと思うがな?」 とアランは呟き、イサベラの頬を指で撫で、その愛らしい顔に眼を落した。
頬を触られイサベラは泣きそうな声を上げた。繊細なリネンのシャツの下、レオンの肩と背中の筋肉が緊張し、盛り上がった。
「イサベラは可愛いからのお。それに、情熱的でもある。わしが触れると、カッと燃えあがるらしい」 とアランはイサベラの顎を指でなぞった。
「彼女に触るな」 レオンは落ち着いた声で命じた。
レオンが威嚇するように一歩ずつ近づいてくるのを見ながら、イサベラは喉元に当てられている短剣に力が入るのを感じた。
アランは、いささかも怖気づくところなく、またも高笑いした。「アハハ。イサベラはわしのものなのだよ。わしが好きなようにできる」 そう言いながら、イサベラの肩越しに誰かに合図を送った。「…そして、わしは、イサベラをお前にやることに決めた。今すぐにな」
レオンは目を細めた。そして、次にイサベラの肩の向こうへと視線を移した。
イサベラは、この後に起こることを知っているからか、強い恐怖感が身体の中に溢れてくるのを感じた。ドゥ・アンビアージュ神父が衛兵に連れられてくる。それを見てレオンは顔をしかめた。
「もちろん、結婚させてやるのだよ」
「なぜだ?」 レオンは意表を突かれ、信じられない面持ちで訊いた。
「お前はわしを信じないのか? わしの孫がならず者と呼ばれたら困るからじゃよ」
「お前など、信じない!」
アランは笑った。「さあ、どうかな。それでは、始めることにしようか?」