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無垢の人質 第10章 (8) 


「お前の欲しいものは何だ、ダルザス?」

レオンは、剣を抜いてかまえる十数名の衛兵たちに一切目もくれず、堂々とイサベラの方へと進んだ。アランが合図を送ると、衛兵たちは一斉に動き、ぎこちない構えで歩み進むレオンを取り囲んだ。

だが、レオンは平然と衛兵たちの群れの中へと進み、彼らの前を通り過ぎた。まっすぐにイサベラだけを見つめ続け、衛兵どもなどまったく眼中にない様子だった。

レオンが衛兵たちの中5メートルほどに進んだ時、アランは手をかざし、止まれと命じた。レオンはそれに従ったが、決して好んで止まったわけではないことは、誰の目にも明らかだった。

「お前が欲しがっているものと同じだと思うがな?」 とアランは呟き、イサベラの頬を指で撫で、その愛らしい顔に眼を落した。

頬を触られイサベラは泣きそうな声を上げた。繊細なリネンのシャツの下、レオンの肩と背中の筋肉が緊張し、盛り上がった。

「イサベラは可愛いからのお。それに、情熱的でもある。わしが触れると、カッと燃えあがるらしい」 とアランはイサベラの顎を指でなぞった。

「彼女に触るな」 レオンは落ち着いた声で命じた。

レオンが威嚇するように一歩ずつ近づいてくるのを見ながら、イサベラは喉元に当てられている短剣に力が入るのを感じた。

アランは、いささかも怖気づくところなく、またも高笑いした。「アハハ。イサベラはわしのものなのだよ。わしが好きなようにできる」 そう言いながら、イサベラの肩越しに誰かに合図を送った。「…そして、わしは、イサベラをお前にやることに決めた。今すぐにな」

レオンは目を細めた。そして、次にイサベラの肩の向こうへと視線を移した。

イサベラは、この後に起こることを知っているからか、強い恐怖感が身体の中に溢れてくるのを感じた。ドゥ・アンビアージュ神父が衛兵に連れられてくる。それを見てレオンは顔をしかめた。

「もちろん、結婚させてやるのだよ」

「なぜだ?」 レオンは意表を突かれ、信じられない面持ちで訊いた。

「お前はわしを信じないのか? わしの孫がならず者と呼ばれたら困るからじゃよ」

「お前など、信じない!」

アランは笑った。「さあ、どうかな。それでは、始めることにしようか?」


[2013/02/22] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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