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無垢の人質 第10章 (9) 

イサベラにとって、続く数分間は何十年にもわたる時間に思えた。強引に司祭の前にひざまずかされた。短い儀式ではあったが、その間ずっと、衛兵が横に立ち、彼女の首に短剣を押し当てていた。その彼女のもう一方の隣にはレオンも座らされていた。

イサベラの目に涙が溢れてくる。レオンは、指を絡ませて彼女の手を握った。彼女が誓いの言葉を発する時には、安心させるように、彼女の手を強く握りしめた。

誓いの書に署名がなされた。そしてイサベラの父に手渡される。だが、手渡された次の瞬間、イサベラの父アランは、いきなりレオンのこめかみを殴った。レオンは、がっくりとイサベラの横に崩れた。イサベラは彼の身体を抱きかかえようとしたが、その体重は重く、両腕で頭を抱えるのが精いっぱいだった。

「ああ、レオン! お願い、お願いだから目を覚まして!」

「安心せい。この程度ではこいつは死なない。こいつを永久に眠らせておくには、今よりずっと強く殴らなければいけないからな」とアランは呟いた。

衛兵が数人、泣き叫ぶイラべらを取り囲み、引きずるようにして立たせた。

「めそめそするんじゃない! お前はすでにこいつに子供を孕ませられているのではあるが、この結婚は国王によって祝福される必要があるのだ。とりあえず、まだ生きていてもらわねば」

イサベラは抵抗を止めようとしなかった。衛兵たちから必死に逃れ、レオンのもとへ駆け寄ろうとする。それを見てアランは、イサベラにもこぶしをふるった。彼女をおとなしくさせるために。

~*~

イサベラはゆっくりと意識を取り戻し、苦痛のうめき声を上げた。疾駆する馬に乗せられていて、そのためにいっそう困惑と目眩が募った。

「目を覚ましたか。ひどく殴りすぎてしまったかと心配したぞ」 

強い腕で身体を押さえられていた。憎むべき父の身体に身体を引き寄せられている。だが、抵抗してもがくのは無意味だ。馬から落ちてしてしまったら、お腹の中の子も傷つけてしまうかもしれない。


[2013/03/06] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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