キングは牧師に次の質問をした。「あなたは、アドキンズ氏のどこがそんなにお嫌いなのですか?」
「この男は、変態で、性的に無節操な売国奴です。アンドリュー、教えてくれないか? 君のことをアンドリューと呼んでもよいよな? 君は、テロリストと知られた人物と毎週会っているというのは本当なのかね?」
アンドリューは目をぱちくりさせた。これはまったく予期してなかったことなのは確かだった。
「えっと、ジョニー? 僕もあなたをジョニーと呼んでいいよね? それ、何の話か、分かりません。できれば、もうちょっと具体的に言ってくれるといいんじゃないかな?」
「ジョセフ・マンベラという人物だよ。この人物は、何年も君の家に毎週通ってるそうじゃないか。それは本当なのかね? このマンベラという人物はイスラム教徒で、テロリストのシンパというのも本当なのかね? これをどう説明してくれる? 君はテロリズムを支援してるんじゃないのか?」
彼は勝ち誇ったように言った。一方、アンドリューは笑っていた。
「ああ、ジョーのことですか? ジョージア・サザン大学の学生の。ええ、彼は毎週1回、家に来ますよ。どうしてダメなんですか? うちの子供たちにスワヒリ語を教えてくれているんです。彼がイスラム教徒? そうかもしれませんね。でも、イスラム教徒だと自動的にテロリストとされるとは思えませんが。もっとも、そういうふうに考えるとんでもないバカがいるのは知っていますが。それに、どのみち、あなたが最後に言ったところは間違いだと思いますよ。彼はテロリストではありません。タンザニア人です。タンザニア出身です」
善良なる牧師は発言の機会が来たとみて、口を出した。
「こんな嘘を絵にかいたような言い訳、初めて聞いたなあ。このテロリストは、君の無垢の子供たちにスワヒリ語を教えると偽って、君の家に来ているに違いないじゃないか! この国が君に対して何をしようが、君にはもったいなさすぎるよ」
ラリー・キングがアンドリューに質問した。
「お子さんたち、スワヒリ語を習ってるとおっしゃいましたね? そういう勉強をするには幼なすぎませんか? それに、どうしてそんな良く知らない言語を? フランス語とかスペイン語とかドイツ語とかでないのは、なぜ? アドキンズさん、これはちょっと奇妙だと言うのはお認めにならなければいけませんな」
「別に、そんなことを認めるつもりはありません。キングさん? あなたは欧州中心主義的な偏見を見せびらかしてしまってるように思いますよ? 実際のところ、子供たちはフランス語もドイツ語も習っています。それに日本語と中国語もね。妻たちは、子供というのは、幼くて脳がまだ言語を習得する前の段階にある時に、複数の言語を学び始めるのがベストだと言うんです。もし、それが問題だとおっしゃるなら、私でなく、妻たちに文句を言ってください。私は、何も知らない傍観者みたいなもんですから」
「そうですねえ、この件なら簡単にはっきりさせられそうだ。あなたはお嬢さんを連れてこられた。私からお嬢さんにいくつか質問してもよろしいですか?」
アンドリューは微笑んだ。「ええ、どうぞ。ご自由に」
キング氏はエマに質問した。「お嬢ちゃん、お名前は?」
「エマです。5歳です」
エレが私に囁いた。「エミーはわざと5歳児の演技をしているわ。これって見ものよ」
キング氏が続けた。「エマ、ジョセフ・マンベラという男の人を知ってるかな?」
エマは困った顔をした。「ジョーイのこと? ジョーイなら私の先生よ!」
「みんなに、何かスワヒリ語をしゃべってくれるかな、エマ?」
「ジャンボ。ハバリ? ワピ・チュウ?」
娘たちと一緒にレッスンの場にはいたけど、私には、ここまでしかスワヒリ語は理解できなかった。この後、エマは何かベラベラと喋ったけど、私にはぜんぜん言葉を拾うことすらできなかった。ただ、他の娘たちは全員、いっせいに笑い出した。
キング氏は感心した顔をしていた。「何と言ったの?」
エマは無邪気な顔をしてみせた。「こんにちは、ご機嫌いかが? トイレはどこ? それと、あそこにいる太った男の人は誰?」
私はエレに訊いた。「本当は何て言ったの?」
「あのデブ尻のバカモノは誰?」
私は我慢できなくなり、ばっと吹き出してしまった。「エレ? この放送を聞いた人の中に、エマが言ったことを理解できる人がいるわ。この話、国じゅうに広まるわよ」
エレは頷いた。「ええ、みんな、ウォルターズ牧師はデブ尻のバカモノと思うようになるわ」
ラリー・キングはウォルターズ神父に顔を向けた。「これで満足なさいますか、ウォルターズ神父?」
だがウォルターズは相変わらず攻撃的なままだった。