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ライジング・サン&モーニング・カーム 第7章 (8) 

ノボルは立ち上がるとアンジェラのそばに行き、彼女の手を取った。そして再びベッドへと連れていった。

「私は大きなバイオテックの会社を持っていると言ったのを覚えていますか?」

アンジェラは頷いた。

「私たちは、いくつか別々のプロジェクトを進めています。そのいずれも、私の身体の生物機構や化学機構を理解しようとする研究から生まれたものです。あなたが医大にいた時に教わった分子遺伝学について、覚えていますか?」

「基本だけ。ずいぶん前になるから」

「覚えているかもしれないけれど、DNAというのはイントロンとエクソンで構成されています。エクソンは、遺伝情報のうち、実際にたんぱく質に変換される部分ですが、イントロンはいささか無用と言えるもので、最終的には細かく分断される部分です…」

「…これもご存知かもしれないけれど、動物種の中には、遺伝物質の点でそんなに違いがないものが多く、中には我々人間のゲノムと90%以上類似しているものもいる」

「それで?」

「これら無用と思われる変換されない遺伝領域には、高等哺乳類の動物種に共通の遺伝物質が含まれているのではないかと推測されてきました。私が何に感染したか、それは分かりませんが、それが、いま言ったような変換されない遺伝領域のうち、普通の人間とは違った部分を活性化したようなのです。特に狼に関係した部分を」

「でも、それは意味をなさないわ」とアンジェラが遮った。「あなたのDNAはすでに人間のものにセットされていたはず。なのに、どうして、そういう部分を活性化できるわけ?」

「実際、感染をもたらしたウイルスは、レトロウイルスである点で、HIVと非常によく似ているのです。そのウイルスは、逆転写酵素を使うので、既存のDNAを書き変えることができる。私たちは、私の老化が非常にゆっくりとしている理由はこれであると発見しました。老化のプロセスは、染色体の先端についている物質に関係しているらしい」

「テロメアね」 とアンジェラが付け加えた。

「その通り。私のDNAで活性化したと思われる顕在的な遺伝情報の一部は、余分なテロメアに変換されるたんぱく質の情報となっていました。その結果、私のテロメアは決して減らないのです。認識できる形では一切減らない。問題のウイルスは常時、私の遺伝物質を書き変えているので、DNAの複製過程でエラーが生じてもすぐに修正される。その結果、過去400年にわたって、私の身体はいかなる種類の癌化過程も経験していないのです」

アンジェラは驚いた顔でノボルを見つめた。

「ノボル? 自分で何を言っているか知ってるの? もし、その過程をコントロールする方法を見つけたら、長命の秘密の鍵を発見したことになるし、あらゆる癌の治療法を明らかにしたことになるわよ」

「ワクワクするでしょう?」 とノボルは微笑み、アンジェラの髪を撫でた。

アンジェラは彼の発見の重大さに、頭がくらくらする思いだった。「あなたのところの科学者たちがこれを明らかにしたら、ノーベル賞が量産されることになるはず」

「現時点では、この研究は非常に秘密裏に行われています。と言うのも、うちの研究員たちは、使っている遺伝物質の出所を明らかにできないので」



[2013/03/11] 本家掲載済み作品 | トラックバック(-) | CM(0)

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